新たな国家人材戦略を提案、投資ポートフォリオ理論を応用 米スタンフォード大学

米スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)は8月29日、投資ポートフォリオ理論の原理を応用した新たな国家人材開発の枠組みを紹介する記事を公表した。この研究成果は、学術誌World Developmentに掲載された。

人材開発は昔から、国家の優先課題となっている。既存の戦略は、人的資本と社会資本の構築に重点を置いているが、さまざまな人材の流れの相互関連性を考慮に入れていないことが多い。

同大の社会学者でありAPARCディレクターのシン・ジウク(Shin Gi-Wook)教授と同大博士課程に在籍中のハーレイ・ゴードン(Haley Gordon)氏が提案した「人材ポートフォリオ理論(Talent Portfolio Theory:TPT)」は、国家の人材戦略を投資ポートフォリオと同様に捉え、分散投資、リスク管理、リバランスの重要性を強調している。TPTでは人材を、頭脳の開発(国内人材の開発)、頭脳の獲得(海外人材の誘致)、頭脳の循環(国内外の人材の移動)、頭脳の連携(国外移住者のコミュニティとの関わり)という4つの要素で構成されるポートフォリオとして扱う。

研究では、日本とシンガポールをケーススタディとして取り上げ、国家がその人材ポートフォリオの管理にTPTをどのように適用できるかを示している。

日本の場合、人材ポートフォリオが頭脳育成に偏っていたために、人口減少によって国内で豊富な労働力を確保することが難しくなると壁に突き当たった。2010年代に人材ポートフォリオの多様化に向け再調整を開始したものの、取り組みは停滞している。

一方、シンガポールは、外国人材の積極的な獲得や海外在住者との強固な関係構築に取り組むことでバランスの取れた人材ポートフォリオの構築に成功し、グローバル人材戦略のリーダー的存在となっている。

両国の対照的な経験は、外国人材を誘致するために文化的多様性を育成することの重要性を浮き彫りにしている。シン教授とゴードン氏は、「各国は、優れた人材を獲得するために、開放性、寛容さ、多様性を強調することによって、新たな人材市場における世界的競争力を確保する社会文化政策を制定しなければならない」と述べている。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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