台湾の国立陽明交通大学(NYCU)は4月8日、台北栄民総医院(TVGH)と共同で、精神疾患に伴う脳の変性を人工知能(AI)で予測・可視化する新たな脳画像診断技術を開発したと発表した。
AIを使って脳の変性を可視化、精神医学の診断が脳科学の時代に入る
精神科診断は長らく臨床面接や病歴に依存しており、客観的かつ定量的な評価基準の欠如が課題とされてきた。これに対し、NYCU医学部長でデジタル医療・スマートヘルスケアセンター所長のチーチェイ・ヤン(Chih-Chieh Yang)教授が開発を主導した本技術は、患者の年齢や段階を問わず、AIを活用して脳内の微細な異常を検出し、診断の精度と信頼性を飛躍的に向上させている。
本技術の核となる点は、脳のさまざまな領域における変性を精密に、定量的に評価する手法だ。チームは脳の老化と疾患の進行を長期にわたって観察し、脳内の138カ所の灰白質領域における変性の軌跡をモデル化した。患者の年齢や病期に応じて特定の脳の変性傾向を予測することができ、これにより、疾患の進行を定量的に捉え、個別の診断とより正確な治療計画が可能となった。
TVGHの臨床現場で既に導入されており、統合失調症、双極性障害、うつ病といった主要な精神疾患に対して、特定の脳領域の変性パターンを明示し、治療の標的を明確化している。たとえば統合失調症では、発症から22年間で脳容積の縮小が観察され、特に前頭葉、側頭葉、島葉に影響が見られた。これらの発見により、経頭蓋磁気刺激や脳深部刺激など脳深部の活動を調整する治療法の確立や、脳の働きについて理解するための重要な手がかりが示された。
この革新的技術は、精神医学領域において診断を科学的・客観的に行う基盤を提供するものであり、2025年には米国でエジソン賞を受賞するなど国際的にも高い評価を受けている。今後は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患への応用も期待されている。
ヤン教授は、精神医学診断と、学術分野への画期的な貢献により、2025年エジソン賞を受賞した。
精神疾患の診断および世界のメンタルヘルスケアへの画期的な貢献により、2025年エジソン賞を受賞したチーチェイ・ヤン(Chih-Chieh Yang)教授
(出典:いずれもNYCU)
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部