環境保全研究に先住民や地域社会参加型枠組みを提案 国際研究チーム

36カ国の科学者からなる国際研究チームが、環境保全研究において先住民や地域社会を対等なパートナーとして位置付けるための参加型枠組みを発表した。科学誌nature indiaが4月15日に伝えた。研究成果は学術誌Biological Conservationに掲載された。

本枠組みは、先住民や地域住民の主体的な関与を促す14の原則を提示する。これらは、共同設計、倫理的関与、利益の還元、対話の重視などで構成され、科学者と地域社会との信頼関係の再構築を重視している。研究者らは、現代の科学的知見と先住民族が持つ深い環境知識を融合させることが、持続的かつ公正な保全に不可欠であると主張している。

これまでの保全活動では、地域住民は単なるデータ収集者とされ、意思決定には関与してこなかった。インド自然保護財団のムニブ・カニャリ(Munib Khanyari)氏は「科学的専門性が常に伝統的知識に優ると考えられてきましたが、地域住民は長年にわたり環境を守ってきた存在です。今こそその声に耳を傾ける時です」と語る。

提案された枠組みは、2022年に採択された「昆明・モントリオール世界生物多様性枠組」の理念を引き継ぐものでもある。英国オックスフォード大学のアプールヴァ・クルカルニ(Apoorva Kulkarni)氏は「研究は当初から地域社会とともに進めるべきです。研究課題の設定、結果の解釈、保全戦略の立案においても、地域の視点を欠いてはなりません」と強調した。

また、研究成果の共有や論文の共著者としての関与、市民参加型イベントなどを通じた発信も重視される。先住民による伝統的な追跡技術とドローンを組み合わせた森林監視や、市民科学プログラムによるデータ収集のように、先住民が主導する取り組みは世界各地で成果を上げている。

インドのアルナーチャル・プラデーシュ州のイドゥ・ミシュミ族に属する保全活動家アチリ・ミフ(Achili Mihu)氏は「私たちの森は私たちの命そのものです。保全は理解から始まるべきで、外部の価値観を押し付けてはなりません」と訴えた。彼女は、研究者がサンプルを採取した後に何の説明もなく立ち去る事例も多く、「それは搾取に近い。真の協力には相互性が必要です」と語った。

研究チームは、この枠組みを一律のルールブックではなく、地域ごとの文化的・生態的現実に応じた柔軟な指針と位置付けている。「保全はデータだけでなく、関係性にも基づくべきです」とカニャリ氏は述べ、科学が障壁でなく橋渡しの役割を果たすべきだと強調している。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

上へ戻る