光学顕微鏡革新、脳組織を最大6万4000倍に拡大 台湾

台湾の国家科学及技術委員会(NSTC)は6月11日、中央研究院(Academia Sinica)の研究チームが、革新的な光学顕微鏡技術により、脳組織の体積を最大6万4000倍に拡大し、ハエの脳全体における神経シナプスの可視化を可能にしたと発表した。

開発されたアクリル酸カリウム拡張ライトシートナノ顕微鏡(KA-ExM)法は、サンプルの化学的拡張とベッセルライトシート顕微鏡を統合し、神経科学の探求に革命的なツールを提供する。

従来の光学顕微鏡は、分解能が約200ナノメートルであるため、微細な構造が不明瞭であった。また、電子顕微鏡は、高い分解能を可能とするが、真空環境やサンプルの脱水と改変、蛍光能力の除去などの手間を必要とした。しかしながら、今回発表されたKA-ExM法は、これらの制限を克服し、さまざまな蛍光標識を含めた光学顕微鏡の利点を維持しながら、約10ナノメートルの分解能を可能にした。

研究チームは、アクリル酸カリウム(KA)から作られた高吸水性ハイドロゲルに生体サンプルを埋め込む革新的な方法を採用した。このゲルは水和すると、サンプルを約40倍に均一かつ線形に拡張させ、6万4000倍の体積膨張を実現した。これにより、光学顕微鏡の解像度を超えたナノスケールの観察を可能した。これは例えば、元のサイズが0.5mmのショウジョウバエの脳は1~2cmに拡大され、神経回路の詳細な画像化を可能にする。

研究者らは、拡張されたサンプルをベッセルライトシート顕微鏡と統合することにより、極めて低い光毒性で深部組織の3D画像を迅速に取得した。この方法により、記憶や学習、神経疾患の理解に重要なシナプス足場タンパク質やボタン構造などの複雑なシナプスの詳細を明らかにする。

KA-ExM法は、台北101の全体像と建物内の細部を同時に撮影するようなものであり、包括的で大規模でありながら非常に細かな画像を提供する。この技術は、昆虫の脳だけでなく、マウスやヒトの組織にも大きな期待が寄せられており、神経科学や生物医学研究を変革する可能性がある。KA-ExM技術は、神経回路の理解を飛躍的に進め、神経疾患の早期診断と治療を促進し、バイオメディカル研究の全体でイノベーションを牽引するものと期待される。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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