台湾の国家科学及技術委員会(NSTC)は6月25日、台湾の中央大学の研究チームが次世代AI(人工知能)向け高速データリンクの消費電力を大幅に削減し、光チャネルの帯域幅を拡張する新型シングルモード垂直共振器面発光レーザー(VCSEL)の開発に成功したと発表した。研究成果は学術誌IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronicsに掲載された。
この研究はNSTCの「次世代データ通信向け400/800Gbps SR-8光トランシーバーモジュールの開発」プロジェクトの支援のもとで実現された。新開発のVCSELは従来のVCSEL光源の速度と出力の限界を超え、レーザー素子とシングルモードの光ファイバーを組み合わせることで信号処理ICを使用せずに波長850nmでの40GHzの直接変調帯域幅と距離×データレート積で1km×56Gbpsという世界記録を樹立している。
2023年以降、AIと高性能IC技術の発展によりChatGPTなどの生成AI技術が誕生した。それに伴い、GPUとその周辺スイッチチップなど異なるデータセンター間の大容量データ転送が不可欠となっている。特にNVIDIA製AIキャビネットにおいては、世界全体のイーサネットトラフィックを上回るデータフローが必要とされ、低消費電力、超高速、高密度でICと共実装可能なレーザー光源の需要が急速に高まっている。
中央大学のジン・ウェイ・シ(Jin-Wei Shi)教授の研究では、独自の亜鉛拡散構造技術をVCSELに応用し、従来の構造とは異なる幾何学的設計により、キャリア輸送時間の短縮と出力・速度の大幅向上を実現した。この技術はすでに国内のVCSELチップメーカーによってスマートフォン用近接センサーとして量産化されており、今回の新型レーザーもこれらメーカーと連携して実用化が進められている。
この高速・低エネルギーレーザー光源のAI光リンク市場への応用は間近に迫っており、最終的に製品の量産化に繋がれば、台湾メーカーはAIデータリンクの中核先進技術を掌握し、国内AI産業チェーンをより充実させ、国際競争に有利なものにすることができると期待される。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部