台湾の陽明交通大学(NYCU)は7月29日、人間の脳の学習・記憶機能を模倣する全金属酸化物ヘテロ接合光シナプストランジスタを開発したと発表した。研究成果は学術誌Smallに掲載された。

NYCU光子学部のポー・ツン・リウ(Po-Tsun Liu)卓越教授(左)
(出典:NYCU)
本研究は、NYCU光子学部のポー・ツン・リウ(Po-Tsun Liu)卓越教授が率いる研究チームによって行われた。開発したデバイスは、三酸化タングステン(WO3)とインジウムタングステン亜鉛酸化物(InWZnO)のヘテロ接合を基盤とし、可視光(波長650、525、460nm)への高感度と、シナプス可塑性を再現する能力も示す。
同教授によれば、このデバイスは光パルス刺激とゲート電圧変調を組み合わせることで短期記憶と長期記憶の両方を再現でき、安定性や再現性に優れ、既存の類似デバイスを大きく上回る性能を示すという。
研究チームはさらに、このデバイスを用いてRGB信号をリアルタイム処理可能な2×2光子シナプスアレイモジュールを構築した。このアレイは、人間の網膜が持つ階層的な知覚・記憶メカニズムを模倣し、学習と忘却のシミュレーション後、光刺激がなくても情報を保持する不揮発性メモリ機能を備える。この特性は、脳模倣型の視覚メモリチップ開発の基盤となる可能性がある。
加えて、このデバイスを人工ニューラルネットワーク(ANN)シミュレーションに組み込み、手書き数字認識や画像セグメンテーションの課題に適用した。ガウスノイズや縞模様ノイズといった劣化条件下でも高い認識精度を維持し、U-Netアーキテクチャによる画像セグメンテーションでもほぼ理想的な結果を達成した。
本技術は革新的な医療診断、自動運転ビジョン、ウェアラブルセンサー、生体模倣ロボットなどの分野で応用が期待でき、人工知能と高度センシングの融合による新たな展開を切り開くものだ。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部