台湾の中央研究院(Academia Sinica)は9月16日、植物において初めて人工的な二重炭素固定システムを構築し、炭素固定効率を50%向上させたと発表した。研究成果は学術誌Scienceに掲載された。
植物による光合成は地球上の炭素吸収の大部分を担っているが、光呼吸や脂質合成の過程でCO2が放出されるため効率が低下する。研究チームはこの課題に対処するため、合成生物学を用いて新たな炭素固定サイクルMcGサイクル(マリル-CoAグリセリン酸サイクル)を設計した。
研究チームは二重回路型の炭素固定システムが植物の成長と代謝にどのような影響を与えるかを調べるために一連の実験を設計した
(出典:Academia Sinica)
このサイクルは当初細菌で試験され、その後植物に導入された。従来のカルビン・ベンソン・バシャム(CBB)サイクルと連携して機能することで、自然界には存在しない二重炭素固定システムが形成された。その結果、炭素固定効率が50%向上し、植物の成長が加速するとともに脂質生産量が大幅に増加した。
研究チームはこの植物を「合成C2植物」と位置づけており、実験ではバイオマスが2~3倍に増加した。これにより、航空バイオ燃料の持続可能な原料としての活用が期待される。
一方で、遺伝的安定性や遺伝子編集手法への改良、主要作物での応用など課題も残されている。研究責任者であるジェームズ・C・リャオ(James C. Liao)院長は「これは基礎科学における根本的なブレークスルーです。直ちに地球規模の課題を解決するものではありませんが、合成生物学の新たな可能性を示しました」と述べた。
共著者の植物微生物研究所のウー・シュシン(Shu-Hsing Wu)特別研究員は「植物の成長制御に新たな視点を与えます」と述べ、イエ・クオチェン(Kuo-Chen Yeh) 農業生物技術研究センター長は「イネやトマト、ランといった作物での試験を次の段階とします」と展望を示した。筆頭著者のルー・クァンレン(Kuan-Jen Lu)博士は実験と解析を担当し、プロジェクトの中心的役割を担った。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部