台湾の陽明交通大学(NYCU)は9月30日、台北栄民総医院(TVGH)および日本の国立がん研究センター中央病院(NCCH)と了解覚書(MoU)を締結し、がんの診断・治療、ゲノム医療、人材交流を推進する「アジア太平洋がん研究ネットワーク」を設立したと発表した。

今回のMoUは、NYCUのチーホン・リン(Chi-Hung Lin)学長、TVGHのチェン・ウェイミン(Wei-Ming Chen)総院長、NCCHの瀬戸泰之病院長の3者によって署名された。3機関は、がんの診断や治療、ゲノム医療、医療人材の交流を中心に国際的な連携を進める方針である。
NYCUは台湾で唯一、工学と医学を統合する大学であり、生物医学工学やデジタル医療、AI支援診断などの分野で強みを持つ。リン学長は「NYCUの技術的専門性とTVGHの臨床力、NCCHの国際的な資源を組み合わせることで、がん治療の革新を加速できると考えています」と述べた。
日本の国立がん研究センター(NCC)は、国内最大規模の次世代シーケンサー(NGS)データベースと臨床試験基盤を有する。附属のNCCHは、乳がんや消化器がん、呼吸器がんなどの高度ながん治療で知られ、世界で唯一の垂直型のホウ素中性子捕捉療法(BNCT)施設を備えている。瀬戸病院長は「このMoUは三者協力の新たな章を開くものです。今後5年間で人材交流や研究訓練、知識共有、国際試験を進め、がん研究と医療の発展に寄与していきます」と語った。
チェン総院長は「がんは世界的に深刻な公衆衛生課題であり、国際連携が不可欠です。TVGHは重粒子線治療やBNCT、精密手術の分野で実績を上げており、この提携によって臨床試験の範囲と深さをさらに拡大できます」と述べた。

瀬戸泰之病院長(右)は、本覚書調印により三者によるがん研究の推進と世界中の患者への利益提供に向けた幅広い協力の道が開かれると述べた
Photo credit: TVGH (出典:いずれもNYCU)
MoUによると、3機関は今後、国際臨床試験の拡大と患者募集、共有NGSデータベースと成果分析基盤の構築、腫瘍学や精密医療に関する学術会議の共催、研究者や学生の交流促進、アジア太平洋地域でのオープンデータ推進などに取り組む予定である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部