台湾の陽明交通大学(NYCU)は10月8日、神経科学研究所の研究者らが、神経細胞の電気的活動をこれまでにない精度で捉えることができる画期的なライブイメージング技術を開発したと発表した。研究成果は学術誌Nature Methodsに掲載された。

NYCU神経科学研究所のチェン・ツァイウェン(Tsai-Wen Chen)准教授(右)とリン・ベイジョン(Bei-Jung Lin)准教授
私たちの感覚や思考、記憶は、神経細胞間で伝達される電気信号から生じる。しかしこれらの信号は脳の深部で発生し、数ミリ秒で消滅するため、直接観察することはほぼ不可能であった。従来の光学イメージング技術は、光散乱の影響を受けやすく、神経活動が鮮明に可視化される代わりにぼやけたハロー像しか得られなかった。
NYCUのチェン・ツァイウェン(Tsai-Wen Chen)准教授とリン・ベイジョン(Bei-Jung Lin)准教授は、電位感受性蛍光分子を用いて、神経細胞の膜電位の微妙な変動を監視することで、この課題に取り組んだ。彼らは、神経信号が空間的に重なり合う一方、特定の瞬間に発火する神経細胞はごくわずかであることを発見した。研究チームは、これらのまばらな電気的活動の閃光を位置情報の手がかりとして扱うことで、新たなレベルの鮮明な画像を実現した。
研究者らは、活動局在イメージング(Activity Localization Imaging:ALI)と呼ぶ技術により、生きたマウスの海馬神経細胞を観察し、各神経細胞の放電の正確な座標を特定した。数万の放電イベントを統合することで、高解像度の神経活動マップを構築した。

再構築された神経活動マップは、興奮性神経細胞(黄色)と沈黙神経細胞(青色)を明確に区別している
(出典:いずれもNYCU)
リン准教授は、この画期的な技術によって、小さく高密度に集積した興奮性神経細胞さえも区別できるようになり、空間認知と記憶形成を担う神経回路に新たな光を当てたと指摘した。現行の手法は活動的に発火しない神経細胞の検出は不可能であるが、研究者らは生物の単一細胞解像度での脳活動を可視化するための極めて重要なステップであると考える。
台湾を拠点とする学際的な研究チームが主導し、国際共同研究として実施した本研究は、NYCU の神経科学研究の強みと長期的な投資を実証し、世界の脳科学における台湾の画期的な成果である。
サイエンスポータルアジアパシフィック編集部