髄芽腫の発生促進分子メカニズム解明、新治療標的を特定 台湾・陽明交通大学

台湾の陽明交通大学(NYCU)は10月14日、研究チームが小児で最も一般的な悪性脳腫瘍である髄芽腫の発生を促進する分子メカニズムを解明し、タンパク質TTBK2を新たな治療標的として特定したと発表した。研究成果は学術誌Cell Death & Differentiationに掲載された。

ジンウー・ツァイ(Jin-Wu Tsai)教授(左から2人目)とウォンジン・ワン(Won-Jing Wang)教授(同3人目)と研究チームメンバーら

髄芽腫は運動や平衡を制御する小脳で発生する腫瘍で、神経発達過程の異常と密接に関係する。今回の研究は、細胞表面に存在する一次繊毛が腫瘍形成に深く関与していることを明らかにした。

NYCU生化学・分子生物学研究所のウォンジン・ワン(Won-Jing Wang)教授と神経科学研究所のジンウー・ツァイ(Jin-Wu Tsai)教授が率いる研究チームは、マウスおよびゼブラフィッシュを用いた解析により、TTBK2とHUWE1という2つの遺伝子が一次繊毛の形成と分解を制御していることを突き止めた。TTBK2は顆粒ニューロン前駆細胞(GNP)において一次繊毛の構造と機能を維持し、増殖を促進する。一方、HUWE1は細胞の成長が完了するとTTBK2を分解し、繊毛を除去して細胞の分化を誘導する役割を担う。

この均衡が崩れると、TTBK2が分解されずに繊毛が残存し、GNPの増殖が過剰となり腫瘍形成が進行する。研究チームは、TTBK2の活性を抑制することで腫瘍細胞の繊毛を除去し、成長シグナルの受信を阻害して腫瘍の増殖を大幅に抑えられることを示した。

さらに、ソニックヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達がTTBK2を安定化させる仕組みが腫瘍細胞で異常に働いていることを明らかにした。この結果から、TTBK2を標的とした治療がSHHサブタイプ髄芽腫に対して有効である可能性が示唆された。研究チームは、一次繊毛が神経発達だけでなく腫瘍形成にも重要な役割を果たすことを強調している。

TTBK2活性が小脳グリア前駆細胞(GNPs)の増殖を促進するという発見は、脳の発達と疾患におけるその重要な役割を浮き彫りにしている

研究チームは、SHHシグナル伝達がTTBK2というタンパク質を保護し、それが細胞の一次繊毛上に留まり神経細胞の成長を促進することを発見。しかし脳腫瘍では、このメカニズムが乗っ取られ腫瘍の進行を加速。本研究は、TTBK2を阻害することがSHHサブタイプの髄芽腫に対する新たな治療戦略につながる可能性を示唆
(出典:いずれもNYCU)

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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