東アジア新興経済、5GやAIの国際標準づくりで主導 スタンフォード大学APARC

米国のスタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)は10月14日、グローバルなテクノロジーガバナンスの変容をテーマに、東アジアの新興経済が5GやAI、IoTなどの国際標準づくりで主導的役割を強めている現状を紹介した。APARCショレンスタイン現代アジアポストドクター研究員イングチウ・クアン(Yingqiu Kuang)氏へのインタビューを公開したものである。

同氏は現在、初の著書『ありふれたイノベーションのモザイク:新興国、多国籍企業、そしてグローバル5G技術ルール』の執筆に取り組んでいる。この研究は、中国や韓国をはじめとする東アジア諸国が、5G通信分野においてどのように技術ガバナンスを再構築しているのかを分析するものである。これらの国々は、国境を越えた標準化とルール策定を通じて、デジタル変革の新時代を主導している。

研究の目的は、世界の5G標準の約半数が中国や韓国の多国籍企業(MNE)によって提案されている理由を明らかにし、従来の技術大国とは異なる彼らの戦略を解明することにある。これらの企業は、国内制度と国際制度を戦略的に連携させ、制度の複雑さを競争優位へと転換している。

本研究からは二つの重要な示唆が得られる。第一に、国家間の地政学的競争よりも、国境を越えた民間ガバナンスが実際の競争結果を左右している点である。第二に、国家と企業の関係が一層複雑化し、特にアジアを中心としてガバナンスの在り方を再評価する必要がある点である。

一方で、研究には二つの課題も存在する。一つは、グローバル・テクノロジー・ガバナンスにおいて、実務と世論との間に乖離が見られることである。技術者たちは日々の専門的な作業に集中しているが、その議論自体が地政学的な意味を帯びつつある。もう一つはデータの不足であり、国際機関のアーカイブ整備が進んでいない現状を踏まえ、グローバルなルール形成の記録を残すための手法を確立することが今後の課題となっている。

APARCでの研究活動を通じて、同氏は学際的な議論から多様な視点を得るとともに、静かな環境で研究に集中することができた。今後はアジアおよびヨーロッパでの追加フィールドワークを実施し、研究の深化を図る予定である。

サイエンスポータルアジアパシフィック編集部

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