AsianScientist 2021年4月1日
「最小限の資源で最大限のインパクトを生むことが重要」と話す、気鋭のプロセスエンジニアであるシャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ教授。」
シャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ(Sharifah Rafidah Wan Alwi)
教授
マレーシア工科大学
マレーシア
AsianScientist --気候変動は何かと難しい問題を投げかけてくる。従来型のエネルギー源に頼ってエネルギー生産を行うと温暖化ガスの排出が増加する。温暖化ガスにより気温が上昇すると、今度は冷房のためにもっとエネルギーが必要となってしまう。省エネの取り組みや、より環境に優しいエネルギー源への切り替えを意識的に行わなければ、すぐに取り返しが付かない所にまで到達してしまうという危険な状態に、我々は立たされている。
この難問を解決しようと奮闘する科学者がいる。マレーシア工科大学(UTM)のシャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ教授だ。彼女の武器はプロセスエンジニアリングである。プロセスを最適化して、廃棄物の最小化と利益の最大化を目指す成長分野だ。エネルギーや資源をより効率的に活用する方法を見つけられるよう産業界を支援することで、結果的にそれらの使用量の節減に繋がる。
ワン・アルウィ教授が率いるUTMのプロセスシステムエンジニアリングセンター(PROSPECT)は、エネルギーや水などの資源の保全に焦点を当て、より効率的なプロセスを計画、設計、実装することを専門としている。彼女の研究は、節水のためのモスク改修から新しいバイオ燃料の開発、資源使用量をモニタリングするソフトウェアツールの制作まで、多岐にわたる。
2016年には、エネルギー効率化や持続可能性への幅広い貢献が評価され、ASEAN-US科学賞を次点で受賞している。今回Asian Scientist Magazineは、プロセスエンジニアとしての生活やこれまでの研究の意義などについてワン・アルウィ教授に話を聞いた。
1. ご自身の研究内容を簡単に要約すると?
資源使用量の最小化と廃棄物の削減を最適コストで実現するための、プロセス及びシステムの統合です。
2. 最も誇りに思う、完成させた研究プロジェクトは?
電気工学・化学工学の概念を電力統合・電力計画に応用した、領域横断的なプロセス統合方法論を考案するイニシアチブの指揮を執りました。これらの新しい方法論は、2012年の発表時以降、権威ある雑誌でも多数引用されています。
3. 今後10年間で、どのようなことを研究で成し遂げたいか?
産業界や各ステークホルダーは、私たちの研究の有益性に気づき始めています。私たちが開発したツールや方法論がマレーシア内外の産業界で幅広く実用化され、資源使用量の最小化と排出量・廃棄物の削減に繋がって欲しいと望んでいます。
パーム油精製所の熱回収モデルを持つシャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ教授。
写真提供:シャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ
4. 誰(または何)がきっかけで、この分野の研究を始めたのか?
マンチェスター工科大学の学部生時代に、プロセス統合という概念に出会いました。シンプルで実用的なコンセプトであるにも関わらず、諸産業のエネルギー使用量や排出量を削減し大きなインパクトをもたらすことができるということに刺激を受けました。
問題解決に関心があったことから、自分でもプロセス統合技術の発展に貢献したいと思うようになり、マレーシア工科大学大学院に進学しました。その後、私の所属するグループはその技術をパッケージにして、産業界やアカデミア向けの商用ソフトウェアソリューションとして発表するに至っています。
5. これまで研究を行ってきた中で、最も困難だったことは?
私は、ソフトウェアやオンラインソリューションとして(特に産業界の)各ステークホルダーが恩恵を受けられる形にまとめられて初めて自分の研究が完成すると考えています。研究の商業化に向けて動き始めた当初は、研究成果を商用ソフトウェアソリューションへと製品化してくれる良いプログラマーを見つけることが最大の試練でした。
5人の学内のプログラマーと仕事をしてみましたが、毎回ゼロに等しい所からのスタートを強いられ、商業化の難しさを身をもって学びました。現在は信頼できる経歴のあるプログラマーのみを採用し、達成したマイルストーンに基づいて報酬を支払う形にしています。
また、製品が円滑に納品されるようプログラマーを厳しく指導しているほか、進行中の作業であっても必要に応じて他の人に容易に移転できるよう、アクセスしやすいフレームワークを使ってコーディングを行ってもらっています。
6. 現在、学術コミュニティが直面する最大の課題とは?また、その解決方法は?
研究資金の確保と優秀な学生の獲得が最大の課題だと思います。マレーシア工科大学が政府から得ている資金は限定的で、民間セクターからの資金はさらに少ないです。また、修士号・博士号の競争的優位もあまりないため、大学院進学の魅力がますます減少してきています。そのため、有能な大学院生の獲得も難しくなっているのです。
7. 研究者になっていなかったら、何になっていたか?
学部生時代に目指していた、ケミカルエンジニアになっていたと思います。大学院に進学し研究者になってからは、研究や商業化への熱意を追求したり、産業界や政策立案者と密に連携して現実的な問題を解決したりと、知識や技術の移転についてステークホルダーと協働できるアカデミアも刺激的な場だと気付きました。
マレーシアグローバルイノベーション&クリエイティビティセンター(MaGIC)でのピッチングに出席するシャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ教授。
写真提供:シャリファ・ラフィダ・ワン・アルウィ
8.仕事以外でリラックスするためにしていることは?興味のあることや趣味は?
余暇は子どもや家族と過ごします。家族で出かけたり、映画を見たり、ゲームをして遊んだり、料理やお菓子作りをしたり、家でゆっくりするなど、シンプルなことが好きです。
10. 自身の研究に、何か世界の問題を根絶する力があるとしたら、何を解決したい?
革新的な再利用方法と発生した廃棄物のリサイクルを組み合わせたスマートな製造技術を通じて、無料または安価なエネルギーや水資源へのアクセスと汚染のない環境の実現を夢見ています。
11. アジアで研究者を目指す人たちにアドバイスするとしたら?
学術上の業績を作ったり、ジャーナルで論文を発表したりするだけでなく、研究者は自分の研究が社会全体にとってアクセス可能で有益なものであるよう努めるべきだと思います。