アジアの新鋭科学者たち:太陽光技術で世界のエネルギー危機を救う シンガポール大・ホー教授

2021年5月20日 AsianScientist

より明るく持続可能な未来に向けて、シンガポール国立大学 (NUS) のホー・ギムウェイ(Ho Ghim Wei)教授は、世界のエネルギー需要の増加への対策として太陽光技術を活用している。

未来を見据えて研究するホー・ギムウェイ教授 (本人提供)

AsianScientist 1年前になるが、2020年4月22日はシンガポールにとって、これまでとはまったく違う思いでアースデイを迎えていた。2020年の太陽光発電目標である350メガワットピーク (MWp) を達成したことを記念する意味合いが込められていたからだ。エネルギー市場監督庁 (EMA) とJTCコーポレーションによると、350MWpは年間6万世帯に電力を供給するのに十分な量という。

この画期的なマイルストーンを達成することにより、シンガポールは2030年までに2GWpの太陽光発電設備容量が達することが見込まれている。シンガポールの電力の95%はいまだに天然ガスで発電されているが、太陽の光が豊富に降り注ぐシンガポールでは、太陽エネルギーは最も実行可能な再生可能エネルギーとして広く認知されている。

このように太陽エネルギーへの関心が高まる中、ホー教授は、持続可能(Sustainable)でスマートな(Smart)ソーラーシステム(Solar Systems)の設計に熱心に取り組んでいる。この4つのイニシャルの「S」にちなんで彼女の研究室は「S4」と名付けられた。

化学・電気工学・材料科学・物理学の概念を統合し、ナノ材料のユニークな特性を利用して再生可能な方法でエネルギーを生み出すことを、ホー教授らは目指している。

再生可能エネルギー研究への貢献が認められ、ホー教授は2014年にロレアル・シンガポール女性科学者フェローシップを受賞し、2016年にはASEAN-US女性科学賞のシンガポールファイナリストに選ばれた。Asian Scientist Magazine とのインタビューでは、科学に早い段階で興味を持ったことがきっかけで、重要な意味を持つ分野で刺激的な学術的キャリアを積むことになったと振り返る。以下は一問一答。

1. ご自身の研究内容を簡単に要約すると?
持続可能な太陽光技術に以前から興味があったこともあり、エネルギーと環境の持続可能性のために、機能性ナノ材料に関する光量子と熱エネルギー変換を研究対象としています。

2. 最も誇りに思う、完遂した研究プロジェクトは?
光を利用することで、化学反応を促進し、触媒し、効率的な海水淡水化のために熱を発生させる太陽熱ナノコンポジットを開発しました。太陽熱ナノコンポジットを海水中に直接分散させることで、化学反応を瞬時に開始し、蒸気が発生します。局所的な光加熱により、制御不能でエネルギーを大量消費するバルク加熱とは対照的に、発熱を細かく制御することが可能になります。私たちのナノコンポジットは、主に可視近赤外スペクトルでの触媒的でクリーンな水素製造を強化するものです。

シンガポール国立大学の「S4」 研究室のメンバーらと。
写真提供:ホー・ギムウェイ教授

3. 今後10年間で、どのようなことを研究で成し遂げたいか?
エネルギー・環境・水を統合した持続可能な技術への需要の高まりに対応し、貧困地域や遠隔地に手頃な価格で低炭素またはカーボンフリーのソリューションを提供することが最終目標です。

4. この研究分野に進んだきっかけは?
父が構造力学のエンジニアであったこともあり、早くから父の建設現場を見学してプロジェクトや科学技術の素晴らしさを手ほどきしてもらえました。何を勉強したらいいのか、どの道を選べばいいのかを教わったことはありませんが、科学・工学・技術に対する父の熱意が私にも伝わって、この分野への関心が生まれました。
修士課程では、指導教官の「もっと研究してみないか」との強い勧めもあり、カーボンナノチューブの合成に成功した後に材料科学の研究、特に再生可能エネルギーの代替に焦点を当てた実用的な研究をしたいと思うようになりました。これは社会に必ず役立ち、重要な問題の解決策を模索する道になると思ったからです。

5. これまで研究を行ってきた中で、最も困難だったことは?
最も難しかったことは、ワークライフバランスをとることです。研究と家庭の両立に悩むことも多いです。原稿の執筆や編集・学生やスタッフの指導・研究室の設備の設置・進捗報告書の作成など、多忙な研究スケジュールに追われてこのバランスを取れていないと実感しています。永遠の「忙しさ」に陥らないように、できる範囲で仕事量を調整し、優先順位を考えて目標設定するよう心掛けています。

6. 現在、学術コミュニティが直面する最大の課題とは?また、その解決方法は?
学者は、研究資金確保のための激しい競争環境下にあり、プレッシャーを常に感じています。解決方法は、早い段階で企画書の準備を始めて成功の可能性を高めることで、刺激的なアイデアを思いつき、フィードバックを得て、文章を磨く時間が得られます。ほかにも限られた時間とリソースの中で、提案された研究スコープにおいて野心的になり過ぎないようにすること、採用されなくても個人の問題として受け止めるのではなく、企画書をさらに洗練させる機会ととらえることなどです。

7. 研究者になっていなかったら、何をしていたか?
観賞植物の栽培農家か、クライアントのために機能的で美しく、リラックスできる屋外空間をデザインする造園家になっていたと思います。

研究室にて 写真提供:ホー・ギムウェイ教授

8. 仕事以外でリラックスするためにしていることは? 興味のあることや趣味は?
  趣味はガーデニングです。神の驚くべき創造物に触れられ、自分の植物が花を咲かせ、実をつけた時に、大きな喜びと満足感を得られるガーデニングは、単なるレクリエーションではなく、ストレスを解消するための癒しの場でもあり、自然に畏敬の念を抱きました。また、子供たちも参加させているので、家族の絆を深め、自然への感謝の気持ちを学ぶのに最適な野外活動となっています。

9. 自身の研究に、何か世界の問題を根絶する力があるとしたら、何を解決したい?
もちろん、気候変動の問題です。人類の持続可能性に長期的な影響を及ぼす、最も差し迫った地球規模の課題である気候変動は、何もしなければ、生態系に及ぼす危険かつ不可逆的な変化は、人類全体を危険にさらすことになります。

10. アジアで研究者を目指す方にアドバイスするとしたら?
成功は失敗の上に成り立つということです。失敗を乗り越えようとする絶え間ない試みこそ、最終的には自分の望む夢や目標をもたらしてくれるものです。