アジアのチェンジメーカー:ゼロからディープテック企業立ち上げを支援

シンガポールの「Entrepreneur First」でジェネラル・マネージャーを務めるバーナデット・チョー(Bernadette Cho)氏は、グローバルな問題に取り組むディープテック企業のスタートアップを目指す高い志をもつ人たちを支援している。

省エネ型資源循環制度導入が狙い

AsianScientist - スマートフォンやワクチンなどの身近な技術は、かつては想像の産物であったが、今や世界中に広く浸透している。同様に、研究ラボの備品であった3Dプリンター、自律型監視ドローン、ウェアラブル健康機器などのディープテクノロジーも、急速に発展し、日常生活に定着している。このような発明はすでにさまざまな分野における変化のきっかけとなっているが、多くの場合、社会に大きなインパクトを与えるものは投資も多大となる。

シンガポールでは2017年以降、ディープテック企業のスタートアップへの資金提供が順調に増えているが、アイデアが市場で通用するイノベーションとなるまでの道のりは依然として険しい。どんなに熱意のある起業家でも、誰とパートナーを組み、どのようにプロトタイプを開発するかという差し迫った問題に直面した場合、すぐに投資を呼び込むための経験やリソースがないことがある。

Entrepreneur First(以下、EF)は、洗練されたアイデアというよりも可能性を秘めた人材に投資するという、従来とは異なるアプローチをとっている。シンガポール支社でジェネラル・マネージャーを務めるバーナデット・チョー氏によると、EFの6カ月間のプログラムを通じて、才能ある人はネットワーク構築の機会や集中的なトレーニング、資金調達のリソースを得ることができる。

「このアプローチを通じて、大きな可能性を秘めた個人を支援し、ゼロからディープテック企業を立ち上げる力を与えることができます。私たちは、彼らがインパクトを生み出し、世界を変えることができるための最高なプラットフォームを提供したいと考えています」とチョー氏は語る。

一般的にアクセラレーターは、若い企業を育てるアーリーステージの支援者として機能するが、EFでは、企業が設立される前の段階で将来のリーダーとなる人材に投資するというユニークな取り組みを行っている。チョー氏のチームは、各コホートを構築する際に、個人が相性の良い共同創業者を見つけ、共通のビジョンを実現するための手段を提供する。

このネットワーク内で、コンピュータサイエンティストはマーケティングの専門家とパートナーを組み、医療の専門家は医療用アプリケーションを作るための技術的スキルを持つ人を探すことができる。

チョー氏によると、プログラムの後半では、スタートアップチームはベンチャーパートナーの密接な指導を受け、最終的にはLinkedInの共同創業者であるリード・ホフマン(Reid Hoffman)会長や、人工知能(AI)企業DeepMindのデミス・ハサビス(Demis Hassabis)CEOなどの世界的な投資家にソリューションを売り込むことになると説明した。

過去3年間、シンガポールのエンジェル投資やシード案件の3分の1を支援してきたEFは、原子レベルのセンシングやナビゲーション・ソリューションから、AIを活用した音楽業界向けのキュレーション・ツールまでさまざまな発明品の立ち上げを支援してきた。非凡さを見極める目を持つチョー氏は、ディープテックを使い差し迫った問題を解決するという緊急性を持つ起業家を常に探している。

「創業者は、他の人たちに、自らのビジョンを信じさせることができる影響力のあるリーダーでなければなりません。そうして初めて会社を成長させ、投資家やビジネスパートナーを惹きつけるための強力なチームを効果的に構築することができるのです」とチョー氏は補足する。

進化の早いディープテック業界において、チョー氏はやり抜く力と適応力の大切さを強調した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による経済への影響を理由に投資家は資金投資に慎重になり、スタートアップ企業の開発期間が長期化する可能性がある。

パンデミックが旧来のものを一変させてしまったように、チョー氏はディープテックのスタートアップ企業に対応し、イノベーションを活用することで、新しい課題やこれまで放置されてきた問題が解決されることを期待している。このようなギャップを認識するEFは、人材がディープテック分野に参入するためのゲートウェイであり続けている。

EFがシンガポールで実施した第7回コホートでは、産業プロセスで水素を回収して再利用するためのナノ分子膜を開発したDibiGas社が注目を集めた。石油製品を製造する際には大量の水素が使用され、廃棄されるだけでなく、副産物として大量の二酸化炭素(CO2)が排出されることになる。その分子膜は、水素を再利用することでエネルギーを節約し、製油所から排出されるCO2を削減する。

ヘルスケアの分野では、Origin Health社が妊娠中の超音波検査をAIで補強している。超音波検査は、先天性異常のスクリーニングのために世界中で一般的に使用されているが、このようなスクリーニングを確実に行うことができる訓練を受けた臨床医は不足している。同社のAIプラットフォームを使えば、超音波検査を行う臨床医は、数秒のうちに高リスクの妊娠をトリアージし、知らせることが可能になる。

「パンデミックの最中にはさまざまな制約に直面したにもかかわらず、市場をリードするソリューションを開発することができ、それが国内だけでなく世界的にも支持されています」とチョー氏。

チョー氏は、リスクや限界に躊躇するのではなく、現在の状況がゲーム・チェンジングなイノベーションを生み出そうとする人々の行動を促すきっかけになることを願っている。彼女は、目的意識を持った人をゼロからサポートすることが長期的にはディープテックのエコシステムの成長につながると考えている。

チョー氏は「創業志望者は、自分自身に賭けて、自分の持つ貴重な専門知識を自分の情熱を実現するために活用することを厭わないはずです。彼らは、商業的に実行可能なソリューションを開発しながら、地域社会に意味のあるインパクトを与えなければなりません」と言葉を結んだ。