アジアのチェンジメーカー:STEM教育の可能性を追求する シンガポールのセトー博士

2021年7月6日 AsianScientist

セトー・ペイ・ペイ (Setoh Pei Pei) 博士は、親と子を対象にした社会的発達や認知発達の研究を通して、STEM教育がもたらす限りない可能性を追求している。

AsianScientist - 微積分学が苦手な人は、工学に向いているのか、それともSTEM教育[注] からは完全に離れるだろうか? 多くの若い学生の場合、学術研究の分野や職業を選択するとき、自分が得意な分野に進むことが普通だ。その決断は、自分がなりたいもの、自分ができると思うものが基準となる。

しかし、才能についてこのような認識はジェンダーギャップによる影響を受ける可能性がある。日本やシンガポールなどを含む67カ国の中で、調査対象国の大多数の思春期の女子は男子に比べて自分の科学的能力に対する自信がなく、科学に対する関心も低いことが分かった。

セトー・ペイ・ペイ博士によれば、自己効力感が低い場合、科学的リーダーとなり得る素質が十分に備わっていても、特定のキャリアパスを断念してしまう。シンガポールの南洋理工大学の Early Cognition Laboratoryの理事長であるセトー博士は、子供たちが世界の意味を理解し、社会的期待について学ぶ発達過程に関する研究を率いている。

「緊急の社会的懸念とは、不平等さと社会的調和に関する懸念です。子供という最も偉大な財産を育てる最善の方法についても不安があります」(セトー博士)

セトー博士の研究グループは、親は子を育てるために計り知れないほど献身的になることを前提に、親による嘘・ごまかしなどの子育てにおける習慣の影響を研究してきた。子の行動をコントロールしようと親が嘘をつくと子も不誠実になり、さらに悪いことに長期的な視点では子どもの社会的幸福や感情的幸福が傷つき、大人になってからの心理的機能を損なうことになる。

子供時代の経験がその後の人生にも影響を及ぼすというのは、明らかなことである。子供時代の経験は個人の現在や将来の個人の活発さにつながり、価値観や行動を形作る。世界で女性研究者の占める割合が3分の1に満たないことから、セトー博士の研究チームは現在、知能に関する固定観念を子ども時代に払拭したいと考え、こういった固定観念の調査を実施している。

シンガポール教育省が運営するSocial Science Humanities Research Fellowshipの補助金を受けた5年間にわたるこのプロジェクトは、この認識を参加者のキャリア上の野心や自分の能力に対する自信、あるいはその欠如とリンクさせ、才能は本質的に男性に関連しているという信念を分析する。

「ジェンダーの固定観念についての重大なギャップは、ジェンダーの固定観念が発達する根幹にあるものとそれが広まることについて明らかにする研究が少ないことにあります」とセトー博士は語る。

子供たちの可能性を最大限に引き出すために、何が障害になっているのかを把握し、それを克服するサポートが重要であるとも指摘する。子供たちが科学の分野に自分の活躍の場があると信じる時に、困難に立ち向かうための知能や感情的能力を向上させることができ、最終的にSTEM教育を成功につなげることができるのである。

セトー博士によれば、チームはまずこれらの固定観念が子供と大人に植え付けられてく過程を調査している。ある研究では、両親が子どもと一緒に対話形式の物語を読む。研究者たちは、こういった媒体が性別の役割やキャリア願望へ与える影響を明らかにすることに関心を持っている。

一方、別の研究では、STEM教育の分野を含めた様々な分野への適合性に関してシンガポールの子供や大人の考えを調査する予定。初期の研究で得られた膨大なデータの分析により、チームは固定観念を打ち破るための様々な介入戦略をデザインし、試験する。

このような研究活動の中で、セトー博士は市民による科学(citizen science)も擁護する。博士の発達心理学者としての仕事は既に社会的相互作用において深く根付いている一方で、研究室でのプロジェクトはコミュニティーを主題として見るのではなく、研究に関与させることを重視している。

「保護者から早い段階でフィードバックを集めます。ユーザーにより優しい研究を計画するためです。同様に、研究結果を保護者と教育者と共有することで彼らは科学の仕組みを学び、子供たちについても理解できるようになります」(セトー博士) セトー博士は結果の公表だけではなく、この活発なパートナーシップにより、研究成果が地域社会に還元されることを希望している。科学リテラシー促進と合わせて知識の創造プロセスへ市民を関与させることで、研究への理解と研究がもたらす社会への影響を刺激することができる。

このような努力の積み重ねにより、セトー博士はSTEM教育に関する認識を変え、科学コミュニティーにおける表現を高める行動計画を支えるために研究を用いている。多様性は問題解決に斬新な考え方をもたらすため、より多くの女性や女子が科学を目指すことでより容易に進歩を達成できると信じている。

「ジェンダーの多様性は正しいだけでなく、効果的なSTEM教育の研究開発にとってもスマートなことなのです」

「子供たちの心を教育やキャリアにおける大きな可能性に向けて開くことで、女子たちが立ち上がるよう力づけるのです。それは結局、私たちの経済的競争力の向上させることにつながります」

セトー博士はこのように締めくくった。

注: Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を総合的に学ぶ教育方式

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