2021年7月14日 AsianScientist
The Codette Projectを通じて、ヌルル・フサイン氏は、テック業界での成功に必要な機会とリソースに誰もがアクセスできるようなエコシステムを構築している。
AsianScientist - 抗マラリア薬アルテミシニンの開発でノーベル賞を受賞したトゥ・ヨウヨウ(Tu Youyou)氏から、カーボンナノチューブのパイオニアである小塩明氏に至るまで、サクセスストーリーには、それまで無名だった人物をヒーローやロールモデルへと変える力がある。
しかし、スポットライトが常に平等に当たるとは限らない。紙媒体かテレビかを問わず、ニュースに取り上げられる頻度は男性の専門家は女性に比べ3倍と圧倒的に多い。
メディアに限らず、この格差はSTEMをめぐるジェンダー・ギャップを反映するものである。例えば、東南アジアのテクノロジー部門では、女性は労働人口の三分の一に過ぎない。さらに、この分野への関心の低さとキャリアを構築する機会がないと思われていることが原因となり、技術分野専攻の大卒のうち、女性の占める割合はわずか39%でしかない。
The Codette Projectの創設者であるヌルル・フサイン(Nurul Hussain)氏にとって、テック業界への関心を高めるためには、サクセスストーリーが極めて重要なものであり、その過程で意欲的な人材が業界に参入する扉が開いて行く。サクセスストーリーにおける少数派グループの存在が希薄であることは、イスラム教徒の女性である彼女自身が実感している。
「このことは、このコミュニティにおける我々の才能や知性、やる気には全く関係ありません。我々が直面する機会の欠如に関係があるのです」とフサイン氏は語る。
この状況を踏まえて、The Codette Projectでは、ストーリーテリング、能力開発、コミュニティ構築イニシアチブを組み合わせて、イスラム教徒の女性たちに対しテック業界における挑戦機会を創出している。フサイン氏が思い描いているのは、テクノロジーに関する学習に始まり、アイデアの売り込み、技術的なソリューションの実行に至るまで、あらゆるレベルにおけるリソースと機会に女性たちがアクセスできる、より強力なエコシステムである。
コミュニティにとって好意的な技術環境を生み出すため、Codette Caresイニシアチブは、技術分野の道に進むシンガポールのイスラム教徒女性らに対し、資金と9カ月の指導・助言期間を提供している。フサイン氏のチームは、学生、新卒、転職者を支援することで、有望な人材の背中を押してその旅路をスタートさせ、テクノロジーのキャリアが生み出す様々な機会提供につなげたいと願っている。
フサイン氏主催の女性限定ハッカソンは、質の高い教育から気候変動対策に至るまで、国連の持続可能開発目標(SDGs)に沿った革新的なソリューションを開発するために挑むものであるという。
このイベントでは、デザイン思考などの技術的スキルに関するワークショップも開かれる。女性たちは技術力を高めるだけでなく、大きな視点で物事を考え、技術の力を利用して世界的課題に取り組む力を与えられている。
このハッカソンは、ただアイデアを生み出すためのプラットフォームではなく、イスラム教徒の女性に特有のニーズも考慮されている。用意される食事はベジタリアン対応のもので、参加者らは礼拝スペースでリラックスして自分たちの信仰を実践することができる。
これらのイベントでは、少数派の女性たちは、障壁を打ち破り、テクノロジー業界で自分たち自身のサクセスストーリーを紡いでいくという決意を新たにしてきた。フサイン氏によれば、過去の参加者の中には数年後に戻って、感動的な成果をコミュニティと分かち合った人たちも数人いた。
子供連れで参加する母親や、このイベントに参加するためだけに国境を超えて来た人たちもいた。こうしたことは、The Codette Projectの妥当性や影響力を実証するものといえるが、同時に、家族とキャリアのバランスをめぐっては、テクノロジー業界の女性が直面する根強い課題を示すものでもある。
フサイン氏は、技術分野で活躍の機会に恵まれない少数派グループの後押しも続けている。 彼女自身のボランティアチームの中にも、私生活や職業生活上、いろいろな課題を経験し克服してきた多くの人々がいる。
「私のチームのメンバーは、自分のキャリアを次のレベルに引き上げる方法を見出したり、自分なりの成功の定義を描いたりすることがどれほど困難なことであるかを目の当たりにしてきました」
The Codette Project は、すでにイスラム教徒の女性を支援することで話題を呼んでいるが、活動はここで終わるわけではない。コミュニティが拡大し続けるに伴い、フサイン氏は、ネットワーキング、協力、成功を祝うための物理的な空間を作り上げたいと考えている。
テクノロジーの機会をより身近なものにするべく尽力する中で、彼女は少数派グループに対し、困難に立ち向かい、どのようにしたらテクノロジーのフロンティアを押し広げ、業界での地位を確立できるか想像してみることを勧めている。多様な視点をもたらすことで、存在が希薄なこれらのコミュニティは、技術部門の急速な進化の中で積極的かつ目に見える存在へと成長を遂げつつある。
「自分がそこにいることがこれまでに想像されなかった場所や自分のような女性がまったく存在することができなかった場所での成功を目指しているのです」とフサイン氏は訴えた。