2021年7月16日 JSTシンガポール事務所
北緯一度に位置する島国であるシンガポールは、気候変動がもたらす海面上昇と異常気象の影響に敏感にならざるを得ない状況にある。2020年8月9日の独立記念日に首相から国民に向けた演説でも気候変動への対応が今後の政策の大きな柱として取り上げられた。それが具体的な政策として示されたのが「シンガポール・グリーンプラン2030」(2021年2月10日発表)だ。今後、シンガポール政府はこの計画に基づき、持続可能な環境維持に関する政策を推進していく。
グリーンプランは、2030年までに国を挙げて取り組むべき環境政策の包括的なプランだ。教育省、国家開発省、持続可能性・環境省、貿易産業省、運輸省の5つの省が主導し、次の5つを主要な柱として掲げている。
1. 自然の中の都市:
緑に囲まれ住みやすく持続可能な住居の確保
- 2030年までにさらに100万本の木を植え、すべての世帯が公園から徒歩 10 分以内に住めるようにする。
- 2035年までに1,000ヘクタールの緑地を追加する。うち200ヘクタールは新たに公園を設置する。
2. 持続可能な生活:
学校における緑化への取組みを強化
- すべての学校で環境教育を強化するためのプログラムを導入する。
- 2030年までに学校部門からのネットの炭素排出量を2/3削減する。
- 2030年までに少なくとも学校の20%をカーボンニュートラルとさせる。
グリーン通勤
- 2030年までに、ピーク時の通勤客の75%が公共交通機関を利用するようにする。
- 自転車用専用通路を2020年時点の460キロメートルから2030年までに3倍増させ、1,320キロメートルに延伸する。
- 2030年代初頭までに鉄道網を現在の約230キロメートルから360キロメートルに延伸する。
グリーン市民:
- 市民が1日1人あたり廃棄する埋め立てごみの量を2026年までに20%、2030年までに30%削減する。
- 家庭の水消費量を1日1人あたり130リットルに削減する。
3. エネルギーリセット:
よりクリーンなエネルギー車
- 2030年から全ての新車登録をよりクリーンなエネルギーを使う車種とする。
- 電気自動車 (EV) 充電ポイントを現在の28,000カ所から2030 年までに 60,000 カ所に増やす。
より環境に配慮したインフラと建物
- 2030年までにシンガポールの建物の総床面積80% を緑化する。
- 水処理に関する研究開発を加速させ、2025年までに水1リットルの処理にかかる電力を現在の3.5kWh/m3から2030年までに2kWh/m3に減少させる。
持続可能な町と地区
- 2030 までに HDB タウン(公団住宅が集積した街)のエネルギー消費を15% 削減する。
グリーンエネルギー
- 2030 年までに太陽エネルギーへの依存率を現在より5倍増やし、需要の3%を賄えるようにする。
- 再生可能エネルギーと低炭素技術に関する研究開発を増強させる。
4. グリーン経済:
雇用と成長の新たなエンジンとしての持続可能性
- 地元企業が持続可能な発展ができるよう支援するプログラムを導入する。
- シンガポールをカーボンサービスのハブとして発展させ、アジアおよび世界におけるグリーンファイナンスのリーディングセンターにする。
- ジュロン島(シンガポール南西部にある人工島)を持続可能なエネルギーと化学業界の集積場所とする。
- 持続可能性にかかわる産業を育成し、国民の雇用機会を創出する。
業界最高水準の技術への投資
- エネルギー/炭素効率化技術が業界最高水準となるよう、投資を求めていく。
5. 強靭な未来:
海水面の上昇から海岸線を守る
- 研究を加速させ、海水面の上昇が起こる機構の解明や、海外線を洪水から守る技術の開発を行う。
- 2030年までに東海岸、北西海岸、ジュロン島の海岸保全計画を策定する。
食料の安全保障を確保する
- 農業や養殖に必要なスペースと設備を確保し、業界への必要な支援を行い、研究開発を促進することで2030年までに食料自給率を栄養ベースで30%に引き上げる。
シンガポールを涼しく保つ
- 緑を増やし、建物に保冷効果のある塗料を施すことなどにより都市の暑さの上昇を和らげる。
この計画はまた、国連の持続可能な開発目標(SDGs)および地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」へのシンガポールの関与を強化し、シンガポールが可能な限り早期に二酸化炭素(CO2)の実質ゼロ排出を達成することを目標としている。