アジアのチェンジメーカー:生命情報工学でコロナと戦うストロー博士

2021年8月25日 AsianScientist

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが悪化する中、新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) は変異を繰り返している。我々は、セバスティアン・モーラー・ストロー(Sebastian Maurer-Stroh)博士ら生命情報工学者(bioinformatician)のおかげで、そうしたウイルスの動向をフォローできる。

AsianScientist - 「バイオインフォマティクス(生命情報工学)ができなければ、生物学もできない」

生命情報工学者のジェームス・D・ティスダル (James D. Tisdall) 氏が2003年にこう書いたとき、生物学者らはシーケンシング技術の進歩により、ゲノムデータの劇的な増加に直面していた。 数十万のゲノムシーケンスを管理するために、生物学、コンピューターサイエンス、統計学が統合されたバイオインフォマティクスは、すぐに不可欠なツールとなった。

これが一番はっきりと示されるのは、COVID-19の背後にある新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) との戦いにおいてである。世界中で1,000万人以上が感染する中、毎日何千ものウイルスのゲノム配列が解読され、保存されている。このデータの大洪水を理解し、COVID-19との戦いで優位に立つ唯一の方法は、バイオインフォマティクスを使用することである。

ここで、シンガポール科学技術研究庁 (A * STAR) のバイオインフォマティクス研究所 (BII) 副事務局長であるモーラー・ストロー博士ら専門家の出番である。2020年1月にSARS-CoV-2の全シーケンスが決定されて以来、モーラー・ストロー博士と彼のチームは変異を追跡し、過去と未来における発生の可能性を推測してきた。

同博士は「最初の5カ月間は、系統樹を使用してウイルスの関係について毎日報告していました。新しい変種が現れたとき、それらが何であるかを最初に知り、伝えたのは私たちでした」と振り返る。

チームが非常に迅速に対応できた理由の1つとして、新型コロナよりも前に、インフルエンザのモニタリングに使用されていた専門技術、特にFluSurverと呼ばれるオンライン・バイオインフォマティクス・ツールに基づいていたことが挙げられる。FluSurverはウイルスデータ共有プラットフォームであるGISAIDからシーケンスを使用し、世界中のインフルエンザ研究者はインフルエンザの変異をすばやくスクリーニングすることができる。

同様に、CoVsurverは、研究者がアップロードされたシーケンスの変異を認識し、その効果に注釈を付け、3D構造モデルで研究対象の変異領域を目立たせるのに役立つ。2020年8月の時点で、プラットフォームには91,000を超える分析用ウイルスゲノムが存在する。

モーラー・ストロー博士は、これらのゲノム全体の変異を追跡することにより、発生の初期段階ではSARS-CoV-2株同士の差異は小さいことを発見した。しかし、2020年2月から3月の間に、さまざまなウイルスの遺伝子グループが出現し始めた。 これらの違いの臨床的有意性はまだわかっていない。

モーラー・ストロー博士は、「変異が薬物の結合場所近くにある特定の構造部分にある場合、薬物の作用に影響を与える可能性があります」と説明した。

もう1つ注意深くモニタリングされている領域がある。それはウイルスの受容体結合部位であり、ここはウイルスとその宿主細胞の間の相互作用に変化を起こす可能性を持つ。

モーラー・ストロー博士はシンガポールのTan Tock Seng病院の同僚と協力して、SARS-CoV-2の正確な検査キットであるFortitude Kitの開発に貢献した。それ以来、世界40カ国以上にこのキットが導入されている。このことも、バイオインフォマティクスが実際の世界にどのように影響を与えているかを明確に示すものである。