アジアの新鋭科学者たち: 森林の生態系の保護活動に従事するアルヴィオラ博士

2021年8月31日 AsianScientist

フィリピンの"バットマン"こと、野生生物学者でコウモリウイルス学者であるフィリップ・アルヴィオラ博士 (Dr. Phillip Alviola)は、フィリピンの豊かな森林と洞窟の生態系を保護する活動を続けている。

フィリップ・アルヴィオラ博士

AsianScientist - 今般の新型コロナウイルス感染症( COVID-19)、あるいは2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)が出現するずっと前の時代、コウモリウイルス学者フィリップ・アルヴィオラ博士 (Dr. Phillip Alviola) は、フィリピンで少年時代を過ごしていた。 著名な野生生物学者であった父がよく家に持ち帰った鳥の剥製の虹色に輝く羽に畏怖の念を抱いた博士は、いつか自分もジャングルに足を踏み入れたいと夢見た。

幼少期の夢を実現するべく博士は現在、フィリピン国立大学ロスバニョス校 (UPLB) の准教授として、哺乳類分類学、森林および洞窟の生態学、そして近年は、コウモリウイルス学の研究を行っている。

アルヴィオラ博士は、コウモリウイルス学者として研究者らとともにコウモリを捕獲、識別し、翼のある動物から新しいウイルスや抗体を分離している。博士は、フィリピンにおけるコウモリの個体群を長期的に調査することで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のようなウイルスが人間にどう影響するするのかを解明したいと考えている。

一方でアルヴィオラ博士は、コウモリのウイルス学にとどまらず、生物多様性をモニタリングするための地域ベースの方法論も開発し、国内で少なくとも10種類の新たな哺乳類を報告している。現在は、フィリピンの生物学的に豊かな森林や洞窟の生態系を保護する活動を推進し、こうした環境を保護することで、生息地の消失とCOVID-19のような人獣共通感染症の脅威とを共に最小限に抑えることができると考えている。

こうした生物多様性とコウモリウイルス学への貢献が認められ、アルヴィオラ博士は2017年にフィリピン国立科学技術アカデミーのOutstanding Young Scientist Awardを受賞した。アジアンサイエンティストマガジンとのインタビューで、博士は、野生生物学の道に進むことになったきっかけと、この分野の将来に対する期待について語った。

1. ご自身の研究内容を簡単に要約すると?

森林、洞窟、コウモリ、ウイルス。

マキリン山での調査中にフィリピン固有のマダラオオコウモリ (Mottled-Winged flying fox) を手にするフィリップ・アルヴィオラ博士(写真提供:本人)

2. 最も誇りに思う、完遂した研究プロジェクトは?

1999年から2010年にかけて、フィリピンの25の国立公園で行った、地域ベースの生物多様性モニタリングの調査と実施です。生物多様性モニタリングのための方法論を開発し、地域規模、国家規模でデータの分析を行って、新たな知見を発表し、政策立案に貢献しました。例えば、地域ベースのモニタリングが、土地利用や生物多様性の変化を検知するのに効果的であることを発見しました。また、専門家主導のモニタリングよりも結果の整合性が比較的高いことから、地域ベースのモニタリングをフィリピンの保護地域の保全および管理に活用する道を開きました。

3. 今後10年間で、どのようなことを研究で成し遂げたいか?

コウモリウイルス学の研究では、フィリピンに生息するコウモリからいくつかの新しいウイルス遺伝子型を発見しました。これらのウイルスには、コロナウイルス、ハンタウイルス、ガンマヘルペスウイルスなどが含まれます。現在は、国内全土のコウモリの個体群を長期的に調査するプロジェクトを開始し、ウイルスが人間に波及する要因やリスクを突き止めようとしています。この研究が、フィリピン保健省の政策の策定および実施に活用されることを期待しています。

4. この研究分野に進んだきっかけは?

私の場合、1980年代の大衆文化と、野生生物学者としての亡き父の仕事の影響とが組み合わさっています。私は、初期のインディジョーンズの映画を観て育ち、その影響で探検家になりたい、さまざまな場所に行ってみたいと子供のころから思っていました。

5. これまで研究を行ってきた中で、最も困難だったことは?

研究の一環として生物多様性の保全活動を行っているのですが、フィリピンでは、野生動物の密猟や森林破壊といった生物多様性に対する人為的脅威によって保全活動が大きく妨げられてきました。

6. 現在、学術コミュニティが直面する最大の課題とは?また、その解決方法は?

教員にとっては、教育と研究における生産性とのバランスをかじ取りすることは容易ではありません。幸いなことに、ここ数年で多くがより良い方向に変化してきています。フィリピン政府が研究の価値を認識し、幅広い学問分野の研究に多額の資金を提供するよう、積極的に手段を講じています。

7. 研究者になっていなかったら、何をしていたか?

子供の頃からインディジョーンズの大ファンだったので、考古学者か歴史学者になっていたと思います。いずれにしても、最終的にはやはり学者になっていたでしょう。

洞窟に生息するコウモリの調査中、ポリロ島の狭い洞窟の通路に入るアルヴィオラ博士 (写真提供:本人)

8. 仕事以外でリラックスするためにしていることは? 興味のあることや趣味は?

仕事以外の時間はすべて夫として、父親として過ごしています。4歳の息子と一緒に過ごす時間が本当に楽しいです。結婚前はよくマウンテンバイクに乗っていました。熱狂的愛好家で、走行距離計の距離は数千キロを記録していました。

9. 自身の研究に、何か世界の問題を根絶する力があるとしたら、何を解決したい?

私の研究は、生物多様性の保全とコウモリウイルス学が対象ですが、それらに関連する最大の問題が森林の減少と感染症の出現です。これら2つの問題は多くの点で相互に関連しています。人間の活動が引き起こす森林の減少は、野生動物の移動や、新たな病原体への暴露の増加をもたらしています。前者については、手つかずの森林や野生生物を保護するために、人々を効果的に条件づける保全研究や支援活動を推進したいです。後者については、野生動物に起因する新たな感染症の脅威を最小限に抑えたいです。

10. アジアで研究者を目指す方にアドバイスするとしたら

始まったばかりの研究キャリアで目標やマイルストーンを設定することは素晴らしいことですが、状況に応じてそれらの目標を適応させ、ときには変更させられるよう、常に準備しておきましょう。そして、物事には期限があることをお忘れなく!

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