アジアのチェンジメーカー:食料の持続可能性運動に尽力するチー氏

2021年10月21日 AsianScientist

City Sproutsという都市農業イニシアチブにより、シンガポールの食料持続可能性運動はゼロから成長していると共同創設者のチー・ジー・キン (Chee Zhi Kin) 氏は語る。

AsianScientist - シンガポールにおいて、空間は贅沢品である。農業に割り当てられている土地は総土地面積の1%未満であるため、シンガポールは食料についてはほぼ完全に輸入に依存して必要な栄養を満たしている。

このため、シンガポールの食料安全保障は世界的な生産ネットワークの手に委ねられている。たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生時、サプライチェーン(供給網)の混乱と突然の閉鎖により、生鮮食料品の供給は十分だったにもかかわらず現地の市場に入ってこなかった。海外の農業者では収穫物の多くが腐敗し、店にある製品の価格は40〜50%上昇した。

地元の食料生産の強化を目的として、シンガポールはゲノム編集などの最先端技術に目を向け、工業用地を都市農業用地に変えている。しかし、社会的企業であるCity Sproutsの共同創設者であるチー・ジー・キン (Chee Zhi Kin) 氏によると、最終消費者と供給源との間には依然として大きな隔たりがある。

「食料がどのように栽培されるのか見る機会はあまりありません。人々はこの国の食料事情がどうなっていくのかよくわかっていません 」とチー氏は語る。

このような隔たりがあることから、City Sproutsのチームは、食料持続可能性について新しいアプローチに取り組んでいる。このアプローチの推進力となっているのは地域社会と関係構築である。チー氏が教えてくれたことによると、シンガポールの高度に都市化された景観を緑化するために、チームは知識の共有と実践的な農業体験を組み合わせるという独創的な方法を取っている。

Sprout HubはCity Sproutsが運営する社会的な食料ハブである。以前は中学校であった敷地の中に多くの温室が建設されている。チー氏とチームは割り当てモデルを作り上げ、敷地を適切な大きさの農業区画に分割し、合計300から400のテナントの支援ができるようにした。

この区画共有システムを通じて愛好家と農業者が等しくハブに集まり、自分たちの食べ物を育てることができる。また、 City Sproutsはこれら地元の生産者が農産物の供給源となる可能性を求めて、食品飲料業界と積極的な協働を行っている。

チー氏によると、野心的な農業者はSprout Hubを使用して、商業化する前の農業手法の試験も行っている。農業免許を取得するには実証実験が必要であるため、ハブは、農業者が自分たちにとって最適なシステムを考案できるようになるまで様々な戦略を試すことのできるプラットフォームとして機能している。

チー氏は、農業者にとってアプローチの実行可能性を証明することは困難であったことを明かした。何といっても、AI(人工知能)と精密に制御された屋内条件を使用して作物生産を最大化する技術主導型生産量重視システムが標準となってきている中で、彼らはその流れに逆らっているのである。

しかし、City Sproutsの地域社会中心モデルのような代替農業方法も食料持続可能性にとって等しく重要である。食料がどこから供給されているかを理解していなければ、消費者は食料廃棄についてあまり考えることはないかもしれない。チー氏は、このような意識では、食料生産を生産量が高い都市型システムに移行するという目的そのものを達成できないと考えている。

「City Sproutsが果たす役割は、人々にその関係を再考させ、自分自身に疑問を投げかけ、挑戦させることです。運動の一部となるには個人または集団としてどのような行動を取るべきか理解させることです」(チー氏)

Sprout Hubは教育イニシアチブの一環として、一般の人々が農業者と交流できるツアーを主催している。これは、実際の農業および食料が農場から食卓まで届く流れについて理解を深めるのに役立つ。

ハブの他に、チー氏たちのSprouting Aboutプロジェクトには、テラリウム作りに関するワークショップの開催や緑地と持続可能な生活に関する理解を深めることが含まれる。植物栽培の才があろうとなかろうと、個人も組織も都市農業へのかかわりが一層深くなってきている。

City Sproutsは、かつて忘れられていた空間に命を吹き込むことで、都市の中で十分に活用されていない部分を活性化しつつ、人間と自然との破綻した関係を回復するという2つの目的を果たしている。さらに、チー氏とチームは、シンガポールの空間を最大限に活用するために、割り当てモデルを微調整して都市農業に使えることができる他の場所を探している。

食料持続可能性運動に参加するのは、もはや業界人だけではない。ゼロから芽生えたこの運動には、学齢期の子供たちがツアーに参加し、ハブの周りにあるデイケアセンターの高齢者たちも関わっている。これらの取り組みを通じて、チー氏は、地域社会が、共有の都市空間での食料生産を目撃するだけでなく体験できるようにすることを心に描いている。

「私たちの目標の一つは、利益を得る人々に範囲を広げ、住民を私たちの活動の場に引き入れる方法を知ることです。私たちは、農業に向けた世代間交流活動を提供できる主要な団体となることを望んでいます」とチー氏は締めくくった。

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