アジアの科学の先駆者たち:ロボットで社会を変えるアン教授

2021年10月25日 AsianScientist

シンガポールのロボット工学のパイオニアの一人であるマルセロ・アン・ジュニア(Marcelo Ang Jr) 准教授の研究は、運転席無人自動車とパーソナルロボット・アシスタントを想像の域から現実に移すことを約束する。

マルセロ・アン・ジュニア 准教授

AsianScientist - 「宇宙家族ジェットソン」を覚えているだろうか?  テレビ視聴者は、1960年代初頭の宇宙開発競争の最盛期に未来の家族と初めて出会った。60年近く経った今でも、私たちが未来に思い描くものはジェットソンの明るいのユートピアを反映している。しかし今日、うれしいことに、ジェットソン家族の架空の技術は現実のものになるところまで近づいている。

空飛ぶ車やジェットソンに出てくるロージーのようなロボットお手伝いさんにはまだ手が届かないが、シンガポール国立大学 (NUS) 機械工学部のマルセロ・アン・ジュニア 准教授をはじめとするロボット研究者は、一度に一つのプロトタイプを作り、こつこつとこの分野を発展させている。2015年、アン准教授と彼のチームは自律型車両 (AV) としても知られるシンガポール初の運転席無人自動車試験を開始した。翌年、彼のチームは自動運転スクーターを発表した。これは現在、上市の用意ができている。

アン准教授には、将来に向けてロボットに関する大きな計画がある。NUSのアドバンスト・ロボティクス・センター (ARC) の所長として、アン准教授はいつの日か人間とロボットが垣根を持たず共生し、相互作用が可能になることを望みつつ、人間のために働いてくれる協働型ロボット工学の研究を主導している。ロボットへの国民の関心を高めることに情熱を注ぐアン准教授は、毎年開催されるオリンピックスタイルのトーナメントであるシンガポールロボットゲームの初代会長でもある。その大会ではロボットがマラソンを走り、壁を登り、相撲をしたりする。

ロボットがゆっくりと、しかし確実に主流になりつつある中、アン准教授は Asian Scientist Magazine 誌に対し、現代社会におけるロボットとの幅広い関係について自身の見解を率直に話し、今後のプロジェクトの内容を披露した。

1. ロボット工学に最初に興味を持ったきっかけは何ですか?

私はいつもコンピューターに興味を持っていましたが、コンピューターはデータを動かすだけです。それで、データを使って機械を物理的に動かすことができるとしたらどうだろうかと思いました。デラサール大学を卒業後、私はインテルマニラで働き、1980年代にはIBMの最初のコンピューターを1台持っていました。そこで、私は最新のコンピューターツールに触れました。

それから私は海外に行きました。私は機械工学を学びましたが、ロボット工学は機械科学、電気科学、コンピューターサイエンスと融合しているため、電気工学の博士号を取得しました。1989年、私はシンガポールで採用され、ロボット工学を始めました。それが私とロボット工学の関わりです。今でもロボット工学に取り組んでいます。

2. ロボット工学には、ヒューマノイドロボットから自動組立機まで、さまざまな使途が含まれますが、アン准教授は多彩な自律輸送システムの開発で知られるようになりました。自律型車両 (AV) 研究を専門にしたきっかけは何ですか?

ロボット工学の最もアクセスしやすい応用分野を見ると、それは自律型車両なのです。いずれにせよ、誰もが移動を必要としています。たとえば、年をとって運転できなくなったとしても、いつでも友達を訪ねることができれば便利です。子供に電話してどこかに連れて行ってほしい頼む必要はありません。一人で大丈夫です。AVはそれを可能にします。

若すぎて運転できない場合でも、やはり移動する必要があります。金持ちであろうと貧乏人であろうと、老いも若きも、どこかに行く必要があります、そして自動運転車があればそれは可能になります。

3. 残念ながら、アジアの大都市は、世界で最も交通渋滞が発生している都市のほとんどを占めているようです。これらの都市の混雑を緩和するのに、AVはどのように役立ちますか?

AVは最も効率的な方法で運転するため、混雑を緩和できます。 突然車線を変更することはありません。(人間は)常に急いでいるので、混雑のほとんどは人間の不規則な行動によって引き起こされます。 ただし、人間が運転する車がまだある場合は、渋滞を緩和するAVの効果は最小限に抑えられます。 本当に渋滞を緩和したいのなら、すべての車はAVでなければなりません。

しかし、AVの主な理由は、混雑を緩和するためではなく、安全のためです。AVにはすべてを見ることのできるセンサーがあるため、物体がどれだけ離れているかについても分かります。人間はそれができません。ドライバーは障害物を見て近いか遠いかまでは分かるにしても、正確な距離を計算することはできません。最後に、コンピューターは疲れたり感情的になったりすることはありません。眠ることもありません。

4. AVが広く採用される前に、克服すべき課題として何が残っているでしょうか?AVはいつ主流になると思いますか?

最初の課題は、より理性的に運転する人間の行動を予測することです。2番目の課題はローカリゼーションです。現在、私たちはGPSに依存していますが、GPSはあまり正確ではなく、屋内では機能しません。雨や雪といった極端な気象条件でもセンサーは機能しません。そのため、AVが主流になる前にやるべきことがまだ残っています。

しかし、シンガポールは非常に積極的です。3年後のAVの普及を目指しています。プンゴル、テンガ、ジュロン産業地区という3つの地区では、駅を中心として自律的公共交通機関が稼働するでしょう。シンガポールでは、AVは遠距離高速用ではなく、定まった短いルートを走ります。実際、ジュロン島からブーンレイまで運転席無人バスがすでに運行しています。しかし、バスにはまだ人間の安全対策ドライバーが乗車しており、何かが起こった場合に引き継ぐ用意をしています。

5. ロボットを取り巻く差し迫った倫理的問題は何ですか?

最初の問題は、ロボットが人間の仕事を奪うかどうかです。 それに対する私の答えですが、ロボットが人間に取って代わって仕事をしても、それは問題ありません。 機械が人間の仕事を行うことは、人間は機械が行えない他の何かをすべきであるということです。機械が実行できる仕事はおそらく意味がありません。そのような仕事は平凡で反復的なものです。

もう一つの倫理的問題は、人間を定義することです。 将来、人間とほとんど区別がつかないロボットがあるとしましょう。そのロボットは人間が持つ権利を持つでしょうか? そのロボットが誰かを殺した場合、そのロボットを刑務所に入れることができるでしょうか? ロボットは裁判を受けるべきでしょうか?それとも納税者のお金を無駄にするのでしょうか? スイッチを切り、破壊するだけでいいのでしょうか?これらは私たちが問うべき重要な倫理的問題のうちの一部です。

マルセロ・アン・ジュニア准教授と教え子の大学院学生たち。NUSのアドバンスト・ロボティクス・センターにて

6. AVの他に、あなたの興味は自動化とAIコンピューター制御にも広がっています。現在取り組んでいる他の興味深いプロジェクトについて教えていただけますか?

私は人間とロボットの協働に関する大きなプロジェクトに取り組んでいます。具体的には、究極のロボットアシスタントを作成することです。 ロボットアシスタントとは、知能だけでなく物理的な身体も作り上げることを意味します。これが私がソフトロボティクスに非常に興味を持っている理由です。何と言っても、私は巨大で不気味な産業用ロボットを家に置きたくありません。柔らかくてかわいいものが必要です。また、実用的な応用性を持つ小さなプロジェクトもたくさんあります。たとえば、調査のために木に登ることができるロボットです。また、公衆トイレを掃除できる移動ロボットや、ホーカーセンターで道具を拾ったりテーブルを掃除したりできるロボットにも取り組んでいます。

7. ロボット工学とAIの他に、どのようなイノベーションに最もワクワクしますか?

人間と同じようにロボットに知能を持たせることにワクワクしています。人間が学習する方法をどのように理解し、どうやってロボットにインプットすればいいのでしょう? 人間の場合、学習を加速することはできません。6年かかるとすれば、経験を通して6年かかります。しかし、コンピューターでは、その6年を1時間に凝縮することができます。人間がどのように学習し、それを機械にどのように複製すればいいのかを理解したいです。

8. ロボット、AV、AIなどの新しいテクノロジーは、特にそれらが一般的ではない環境の中では怖気づいてしまうものになる可能性があります。 特に意欲的な科学者にとって、どうすればそのような概念を怖気づかせないものにすることができますか?

まず、科学者たちにインターネット接続させ、学べる環境を作ります。ロボットを構築するための無料のオンラインツールはたくさんあります。地方にいる科学者には、インターネットにアクセスできるように簡単なコンピューターを渡します。Arduinoのようなハードウェアを簡単に構築するためのツールもあります。 また、科学者たちに何ができるかを示し、わくわくさせます。だから、彼らの興味をかき立てて、インターネットにアクセスできるコンピューターを渡してください。そうすれば、彼らはロボット工学にかかわることができるはずです。

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