アジアの新鋭科学者たち:宇宙の重力現象を研究するフィリピンのヴェガ教授

2021年12月17日 AsianScientist

イアン・ヴェガ (Ian Vega) 教授と彼のチームは、宇宙を支配する重力現象を調査してフィリピンの物理学研究の視野を広げている。

イアン・ヴェガ 教授

AsianScientist - 3世紀以上前、若きアイザック・ニュートンがリンゴの木の下にぼんやりと座っていた時に果物が頭に落ちてきたという伝説がある。このことは、ニュートンにとって、リンゴを落下させた力は月と惑星の軌道を保つ力と同じであるという理論を作るきっかけとなった。

その神秘的な力は重力として知られ、後の21世紀初頭にアルバート・アインシュタインという別の伝説的科学者によって再度検討されることとなった。ニュートンの理論を頭に入れて、アインシュタインは重力を質量による時空のゆがみと再定義した。これが一般相対性理論、つまり現代の重力理論である。

今日の重力や重力物理学、それにつながる分野(理論物理学、天体物理学、幾何学など)の研究では一般的に、ニュートンのリンゴのような突然のひらめきはあまり見られず、研究室で宇宙の中の死んだ星の残骸を調べる作業が増えている。

ここで相対性理論研究者、探索者、メンター、マイホームパパであるイアン・ヴェガ (Ian Vega) 教授の登場である。フィリピン大学ディリマン校国立物理学研究所の重力グループの責任者として、ヴェガ教授と彼のチームは、あらゆる面で重力を深く理解し、宇宙に関する最大の疑問のいくつかについて答えを探そうと取り組んでいる。

Asian Scientist Magazine のインタビューで、ヴェガ教授は研究の動機と今まで直面した課題について教えてくれた。

1. あなたの研究を一言でまとめると、どのようなものでしょうか。

私たちは、多くは天体物理学的に現れる重力現象を研究しています。ブラックホール、相対論的星、重力波、そして宇宙全体についてです。

ヴェガ教授とフィリピン大学ディリマン校国立物理学研究所の重力グループ
(写真提供:ヴェガ教授)

2. 完了した研究プロジェクトの中であなたが最も誇りに思っているものを教えてください。

選ぶのは難しいのですが、あるフィリピン人学生と共同で作成した最初の論文には、個人的な意味があります。私たちのプロジェクトは、ブラックホールに少量の電荷を加え、許容限度を超えたブラックホールを維持させることによりブラックホールを「破壊」するという理論的メカニズムに関するものでした。私たちになじみのある3次元よりも多くの空間次元を持つ宇宙でこのプロセスがどのように展開するのか興味を持ち、この過電荷プロセスは、次元が高くなるほど難しくなることを発見しました。

アイデア自体は特に興味深いものではなかったのですが、状況によって特別なものになりました。 当時、私はメトロマニラに戻ってきて生活に再度慣れつつあるところでした。けれど研究費も研究室もなく、自信喪失に苦しんでいましたが、共同研究した学生と私は困難を乗り切りました。この経験は、私がここで研究を行うことができるという自信を与えてくれ、科学的メンターとしての私の新しい役割を与えてくれました。

3. 今後10年間の研究で何を達成したいと思いますか?

私たちの研究が重力物理学と天体物理学に対する全国的な支援を引き起こし、これらの分野がフィリピンで繁栄し始め、多くのフィリピン人が急速に加速する発見のスピードについていけるようになることを願っています。私のグループの取り組みがメトロマニラだけでなく、全国に広がる活発な研究コミュニティになることを望んでいます。

小規模な話では、私の研究所内に重力物理学と天体物理学用に恒久的に使える施設があればと考えています。また、近いうちに宇宙重力波望遠鏡 (LISA) コンソーシアムのメンバーになることを望んでいます。

4. 誰(または何)がきっかけとなって、この研究分野に入ったのでしょうか?

高校時代、私の好きな先生に誘われて数学の競技に参加しました。ほとんどの先生が、大きなアイデアに対して遊び心を持てとも教えてくれました。これらの影響が融合して、私を物理学に向かわせたと思います。私はジェロルド・ガルシア (Jerrold Garcia) 博士には特別な思いを抱いています。ガルシア博士は一般相対論の数学の研究者で、私が大学生だったころ、私が現在進んでいる道に導いてくれました。ガルシア博士の自信満々な気質は私自身の気質に強く共鳴しました。博士は特に教育で高い基準を設定し、それ以来私はずっとその基準に到達したいと願っていました。

ヴェガ教授はまず米国、カナダ、イタリアで研究を行い、その後、 フィリピンに戻って自国の次世代の相対性理論研究者を育てている
(写真提供:本人)

5. あなたが研究で経験した最大の困難は何ですか?

研究グループをゼロから始めることは、特に発展途上国では、常に困難です。私が最初にフィリピンに戻ったとき、研究室のことを話す相手がいませんでした。研究とは、学生に計算の仕方を教え、論文を読むときに主張を分析する方法を教えることを意味しました。これは楽しいこともありますが、ある程度までです。

他の関係と同様に、研究の相互作用は独占的に引き出すものであってはなりません。そうでないと、枯れ果ててしまうことが多いです。相互作用は最終的にギブアンドテイクに進化しなければなりません。私のグループが本格的な弾みを得るまでには少し時間がかかりました。現在、このグループには優秀な大学院生と才能あふれるい新しい同僚がいます。彼らは素晴らしい協力者で、私は彼らから新しいことを学ぶことがよくあります。

6. 今日の学術研究コミュニティが直面している最大の課題は何ですか?また、それらを修正するにはどうしたらよいでしょうか?

個人的には、最大の課題は時間が足りないことだと思います。真剣に研究に取り組むということは、研究者に深く考え、新しいものを生み出す貴重な時間を与えることを意味します。良い研究は非常に難しいものです。しかし、1学期につき3つから5つのクラスで講義を行い、同時に管理業務も行わなければならないならば、良い研究を行うことはほぼ不可能になります。良いアイデアは煮詰めるのに多くの時間を必要とし、常に気が散る環境ではそれができないのは当然です。

7. もし科学者にならなかったら、何になっていたでしょうか?

歴史家か哲学者かもしれませんが、それは「たぶん」が大きいです。私は、物語や物事の中で韻と理由を見つけることを楽しんでいます。妻は私が歌手になると思っています。 たぶん私は3つすべてになるでしょう。

8. リラックスするために、仕事以外で何をしますか? 興味のあることや趣味はありますか?

読書です。私は多くの本を買い過ぎます。妻と子供たちをうんざりさせてはいますが、私はわずかな自由時間を使って、猛烈な勢いで拡大している私の書庫を整理しています。

9. 力と資源を持ち、あなたの研究で世界の問題を根絶することができるならば、何を解決しますか?

科学は素晴らしいアイデアを提供することができ、人は自分のエネルギーをそのアイデアに注ぎ込むことができます。人々が良いアイデアにもっと同調し、これらのアイデアが求める慎重な思考をもっと評価すれば、この世界ははるかに良い場所になると思います。

ブラックホール、重力波、星、そして宇宙全体に対する私たちの冒険が無関心を消し去り、情熱に火をつけ、想像力が呼吸する空間を広げるのに役立つ限り、私たちの研究が価値があるものであることを願っています。

10. アジアの意欲的な研究者にどのようなアドバイスをしますか?

自分自身の居場所があることを知ってください。 声を上げてください。 楽しんでください。 好奇心は全ての人のためにあるのです。

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