2022年01月14日 AsianScientist
飽くことのないファイティング・スピリットを持ち、海洋科学者でプロレスラーのナオミ・クラーク・シェン (Naomi Clark-Shen) 氏は、サメやアカエイを乱獲から守るために闘っている。
AsianScientist - プロレスが持つ熱狂的な雰囲気に勝るものはない。レスラーたちはリングに足を踏み入れると、ヤジと拍手が入り混じる中、力と敏捷性を使う妙技を披露する。
プロレスは見世物のパフォーマンスとして興行されるにもかかわらず、テイクダウンからチョークホールドへの圧倒的な動きを見ると、激しい争いであると完全に思い込んでしまう。作られたシナリオに従い、「ライブ」マッチのレスラーは観客を楽しませるキャラクターを演じる。観客はそのキャラクターのファンかもしれないし、アンチファンかもしれない。
シナリオがあるにしても、シンガポールの新しいプロレス界には「コロナイザー」のような型破りの悪役がいて、実にエキサイティングである。この凶悪なキャラクターの裏の顔は、実はナオミ・クラーク・シェン氏である。クラーク・シェン氏は、昼の仕事では別の戦いをしている。
リングに紙テープが投げ込まれない時間帯は、クラーク・シェン氏はジェームズクック大学シンガポールキャンパスの博士課程の学生であり、サメやアカエイの乱獲と戦う使命を帯びている。海洋生物は海洋生態系で重要な役割を果たす。クラーク・シェン氏は地元の海岸でそれらの生態を研究し、保護活動の促進を目指している。
クラーク・シェン氏によると、エイは餌を探すときは砂の海底を掘り、他の水生生物にとって重要な微生育地を作り出す。しかし、地元にはバーベキューのアカエイ料理といった珍味の需要があるため、アカエイの個体群は危険にさらされ、世界的な乱獲と合わせてすべてのサメとエイの種の4分の1を絶滅に追いやる恐れがあり、「それらの種が失われると食物連鎖は混乱し、私たちが食べ、生活のために依存している他の海洋生物に影響を与える可能性があります」(同氏)。
保護のためには市場の需要を変化させるだけでなく、シンガポール、および最終的にはシンガポールの供給のほとんどを占める海外の漁業の両方で海での慣行を変えることが必要である。この目的のために、クラーク・シェン氏は地元の港でサメとエイを調査し、サンプルを解剖し、これらの生活史を解明する研究を行っている。
クラーク・シェン氏は、生物の大きさを測定し、内臓と生殖器官を調べることで、生存期間、食物、交尾時期、生涯で産んだ子孫の数に関する物語を紡ぎ出すことができる。
同氏によると、成熟が速く一度に多くの子孫を産む種は、成長が遅く繁殖が少ない種よりもうまく生存できる。多くのサメやエイの成熟サイクルは遅いので、特に乱獲により幼魚が海で産卵できるようになる前に捕えられるとそれらの個体数は減少し、完全に消滅する可能性がある。
2017年に開始されたプロジェクトで、クラーク・シェン氏らが輸入、またはシンガポールの地元の漁場で捕獲された15,000を超えるサメとエイを調査したところ、サメの種類の中でもカマストガリザメ (Carcharinus sorrah) とメジロザメ (C.sealei)の未成熟個体の割合が高いことが分かった。
アカエイである Maculabatisgerrardi と M.macrura は肉が高品質であるために捕獲され、これらの大量の輸入も警鐘を鳴らすものであった。海でこれらの数が減少していることから、どちらも国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種に分類されている。
クラーク・シェン氏は、これらの判明したことを基にして持続可能性の高い漁業の基盤を構築することができると強調する。 保全生態学者らは、政治家や漁業従事者と協力して、小さな幼魚を引っ掛けないように網のサイズを変更する方法や、特定の深さや期間のみ、はえ縄やフックを投げ込み、繁殖期のピークを保護する方法を推奨できる。
保護に加えて、同氏は動物福祉も心に留めている。これら2つは同義語と見なされることが多いが、同じ方向を見ているとは限らない。適例として、適切に管理されたトロフィーハンティングが保護を支援するために提案されているが、動物福祉活動家にとってトロフィーハンティングは大きな倫理的懸念であることが挙げられる。
プロレスでは、対決はリング内で終了する。これと同じように、クラーク・シェン氏は、責任ある研究に裏打ちされた戦略であれば、このように分裂した問題について双方の役に立つと信じている。たとえば、製品ラベルは責任感と信頼感を育む1つの方法であり、水産物がどこでどのように調達されたのかを表す。そのようなラベルはすでに食肉製品につけられており、同氏はそれが海洋動物福祉の流れを変えることを望んでいる。
「保護上の理由から、漁業従事者が生計を保てる実践的な措置を講じて、持続可能な方法で漁業を続けられるようにすることはできます。しかし、捕獲される魚の福祉を改善させることもできます」(同氏)
クラーク・シェン氏の活動は慎重な対処を必要とするであろうが、情熱とプロレスという創造の場を持つことが、闘志を燃え上がらせ続けている。クラーク・シェン氏にとって、保護と福祉の取り組みをまとめることは、現在の生態系を混乱から立ち直らせるだけでなく、明日の緊急事態も防ぐこととなろう。
クラーク・シェン氏は「私たちは取り組むべき複数の問題を抱えていることが多いですが、実際にそれらをまとめて現実的な解決策を見つけることは決してありません」といい、これら2つの問題をまとめ、思いやりのある保護活動の中で1つのものにすることを次の目標に掲げた。