アジアのチェンジメーカー:代替タンパク質生産で次世代に貢献するイップ氏

2022年01月17日 AsianScientist

タートルツリー・ラブス社の副社長であるイップ・ホンムン (Yip HonMun)氏は、細胞培養ミルクから栄養価の高い成分を抽出し、タンパク質生産を手頃な価格で持続可能なものにするという使命を持つ。

AsianScientist - 食べるために生きるか、生きるために食べるか。いずれにせよ、我々と食糧との関係は、二重の危機に直面している。過剰消費が見られる一方で、食糧不足と飢餓に取り組まなくてはならない。 世界保健機関によると、栄養失調は増加傾向にあるが、20億人近くの成人が太りすぎまたは肥満に分類され、4億6000万人以上が体重不足と考えられている。

今日、独創的なレシピと製造方法によって食べ物の選択肢は大きく増加した。食糧庫の中はあふれており、SNSは投稿が無限に続く。しかしながら、 最高に美味しい製品が健康や環境に深刻な影響を与える場合がある。

たとえば、たんぱく質産業では、1キロの牛肉を生産するのに最大25キログラムの動物飼料が、1リットルのミルクを生産するには6リットルの水がそれぞれ必要となる。イップ・ホンムン (Yip HonMun) 氏は、現在の食料システムは壊れており、非効率的であり、抜本的な修正が必要であると考えている。

より健康的であり持続可能なタンパク質の生産方法を支援するために、イップ氏は2018年に代替タンパク質分野の投資家として活動を始めたが、すぐに自分で行動に移すことに決めた。今年の初め、彼は、細胞培養ミルクを開発しているシンガポールと米国のバイオテクノロジー企業であるタートルツリー・ラブス社の副社長の職を引き受けた。

イップ氏は自身の使命について「タートルツリー社が行っていることと一致しています」としたうえで、「私たちは、母乳に含まれる栄養価の高い成分を、必要とするすべての人が利用できるようにしたいと考えています」と語る。タートルツリー社は新しいバイオテクノロジーを通じて、牛乳生産に革命を起こし、その栄養価の鍵となる機能性成分を抽出している。

イップ氏は、培地の調製に注意を払い、哺乳類細胞が成長し、増殖し、ミルクを生成するように導ける適切な環境を作り上げると説明する。チームは実験室で細胞を培養することにより、従来の牛の飼育方法で使用されている水と土地のわずか10%を使って同じ品質の牛乳を生産できる。

しかし、イップ氏は、哺乳類細胞システムの技術が従来の産業と競争できるレベルまでスケールアップするまでには長い時間がかかるだろうと認めた。これは代替たんぱく質分野全体が直面する厳しい現実であり、手頃な価格で魅力的な製品を提供するには施設と資金を大量に注入する必要がある。

同氏によると、主な問題は牛またはウシ由来原料の継続的な使用にある。代替分野であろうと従来の分野であろうと、多くの食品会社は、細胞培地の作成に必要な成長因子、ヨーグルトその他の乳製品用のラクトフェリンや乳児用調製粉乳用のα-ラクトアルブミンなどのタンパク質などウシ由来の成分に依存している。

このような障害を念頭に置いて、イップ氏とタートルツリー社のチームは、これらの機能性成分を一層効果的に生産させる触媒作用を引き起こさせることで、彼らの使命を果たすことのできる別の重要な方法を実現した。精密発酵手法を使い、バイオリアクターと呼ばれる細胞工場を使用して、純粋な濃度の母乳オリゴ糖 (HMO)、ラクトフェリン、およびα-ラクトアルブミンを生成するのである。

イップ氏は、これらの生体分子の精密発酵はコストを下げるだけでなく、重要な健康上の利益をもたらす可能性もあると力説した。たとえば、乳たんぱく質は免疫防御を強化するのに役立つし、HMOは乳児の腸内の善玉微生物によって消費される糖であり、消化器の健康を維持する役に立つ。

「私たちは特定の成分や製品にこだわっているわけではありません。他にも、産業界が必要とする成分を生産できる可能性を高く持つプラットフォームが存在します」とイップ氏。

技術はすでにかなり成熟していたが、製薬で使われていた元の活用方法を変えて食品安全基準を満たす必要があった、と彼は付け加えた。タートルツリーは現在、このような代替資源を生成し、エコシステム内の他の参加者たちと協力して、多くの消費者に栄養価の高い食品を継続的に提供している。

イップ氏は投資家からタートルツリー社で実権を持つリーダーとなるという遍歴を持つ。その遍歴の原動力となったのは、チームの科学技術能力を信じていたということもあるが、さらに大きな目標に向かう信念によるものでもあった。努力はすべて、利用しやすいたんぱく質源を作るという彼の使命に結びついており、最終的には病気の予防と栄養失調への対策を進めるものとなる。

「私たちは大きな使命感と目的意識を持っています。私は大きなリターンを得ると同時に、私の子供たちとその世代の人々が懸念する問題に対処できるのです。これ以上良い投資先を見つけることはできません」とイップ氏は締めくくった。

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