アジアの新鋭科学者たち:〝21世紀の応急処置キット〟を開発したグエン博士

2022年01月25日 AsianScientist

グエン・ティ・ヒエプ (Nguyen Thị Hiep) 博士は、母国であるベトナムの組織工学と再生医療を発展させる使命を持つ。

グエン・ティ・ヒエプ 博士

AsianScientist - あなたは、人里離れた場所にいると想像してほしい。そして、けがを負っている。傷口を縫うために病院に行きたいが、間に合わない。傷口が開いたままでは、出血多量や感染により、生命は間もなく脅かされるかもしれない。

ベトナムのホーチミン市国際大学のグエン・ティ・ヒエプ博士は、このような状況の発生を防ぐことができる21世紀の応急処置キットの開発に取り組んでいる。彼女は、新しい生体材料を活用して、傷口をふさぎ、生細胞や治療薬を充填することもできるバイオ接着剤を開発した。このイノベーションは、ベトナムの組織工学再生医療 (TERM) の知名度と利用可能性を高めようという彼女の大きなテーマの一部に過ぎない。

グエン博士はその研究成果により、2018年ロレアル-ユネスコ女性科学賞を受賞し、国際的な新進気鋭の才能ある科学者として認められた。 Asian Scientist Magazine誌とのインタビューで、彼女は今までの研究キャリアで直面したいくつかの課題と次の10年間の目標について語ってくれた。

1. あなたの研究を一言でまとめると、どのようなものでしょうか。

新しい治療法の開発を加速させるために、医療分野で使用できる新しい生体材料の製造に焦点を当てています。

2. 完了した研究プロジェクトの中であなたが最も誇りに思っているものを教えてください。

私が最も誇りに思っているプロジェクトは、天然に存在するタンパク質であるヒアルロン酸と、貝の殻に含まれる物質であるキトサンから作られたバイオ接着剤です。 接着剤は、傷口を塞ぐために使用でき、治療のために細胞や特定の成分を使い充填させることもできます。

現在、接着剤が出血を止める能力を調べています。また、他の新しい用途のために、この接着剤の酸素移動特性を調べています。

3. 今後10年間の研究で何を達成したいと思いますか?

今後10年間で、革新的な特性を備えた多くの種類の生体材料を作る計画があります。 私の目標は、さまざまな生物医学的な状況で使用できる多様な生体材料資源を作ることです。

さらに、私の製作物を商品化し、人々に効果的かつ経済的な治療を提供したいと思います。医療技術と医療サービスがもっと急速に進歩できるように、多くの政府資金をもっと公衆衛生部門に向かわせたいと思います。

まとめると、私は患者の病気治療の経済的負担を減らし、それがベトナムの社会経済的状況を改善することを望んでいます。

グエン博士(左から3人目)と研究室のメンバーたち (写真提供:同博士)

4. 誰(または何)がきっかけとなって、この研究分野に入ったのでしょうか?

先進国では、生体材料と医薬品が広く研究されており、それらの多くは患者と地域社会の福祉の向上に役立っています。しかしベトナムでは、病気を治療するために生体材料を使用することはまだ新しい方法なのです。

したがって、ベトナムでTERMへの道を開くのは私の責任だと感じています。 私たちがここベトナムで開発している生体材料や医薬品は、世界市場に関連すると思います。

5. あなたが研究で経験した最大の困難は何ですか?

私が経験した最大の困難は、2012年にベトナムで最初のTERM研究室を設立したときです。これは、プロジェクトも施設も資金もなしでゼロから行う必要がありました。しかし、私は、先進国と同等の設備の整った最新の研究室を学生に提供するという夢を持ち続けていました。TERMの概念を紹介し、才能のある研究生を探すために、さまざまな大学で多くのセミナーを開催することから始めました。

当時、私たちは他の大学や研究所から機器を借りたり、ベトナム国立大学 (VNU) から研究機器を購入するために融資を受けたりさえしていました。提案書の作成と提出に多大な労力を費やした後になって、やっと、VNU、ベトナム政府、米海軍などいくつかの国内外の資金源から助成金を受け取ることができました。

6. 今日の学術研究コミュニティが直面している最大の課題は何ですか?また、それらを修正するにはどうしたらよいでしょうか?

研究者にとっての最大の課題は、人生のさまざまな側面を深く掘り下げ、人生を良くするための革新的なアプローチを見つけるためには、犠牲にすべき部分があるということです。私は女性科学者として、研究や学業の分野で行うべきことを行いながら子育てや家族の世話をしてきました。これには、ある程度の犠牲が必要です。

そのため、私たち科学者がさまざまな役割と責任について効果的に動けるようにするには、時間管理と問題解決のスキルを身に付けることが不可欠です。

7. もし科学者にならなかったら、代わりに何になっていたでしょうか?

私は科学者になる前は、教師をしていました。私は一度転職したことになりますが、後悔したことは一度もないので、科学者は私に最も適していると思います。

8. リラックスするために、仕事以外で何をしますか?

余暇には、買い物、絵画、水泳、2人の娘への読み聞かせを楽しんでいます。 また、夫と私は、仕事で起こった出来事を毎日お互いに話すことは重要だと考えています。他に、ガーデニングが好きです。私はよく自分の庭で過ごしますし、時々両親の庭を訪れます。

9. 力と資源を持ち、あなたの研究で世界の問題を根絶することができるならば、何を解決しますか?

水と食品の汚染は、私たちの世代が直面している最悪の問題の1つだと思います。

10. アジアの意欲的な研究者にどのようなアドバイスをしますか?

自身の夢に従い、それを追求してください。人生は物語のようなものです。物語の長さではなく、展開するときがとても素晴らしいのです。

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