アジアの新鋭科学者たち:フィリピン初のデータサイエンスを主導するレガラ准教授

2022年01月31日 AsianScientist

エリカ・レガラ (Erika Legara) 准教授は、前向きな影響を与えることを誓い、意思決定者、同僚研究者、学生と協力して、毎日作成される豊富なデータの背後にある価値を明らかにする。

エリカ・レガラ 准教授

AsianScientist - 毎日の通勤である場所から別の場所に移動する際、バス停、駅、街灯の配置について特に考えることは通常ない。ましてや、各配置場所の決定に影響を与えた群衆行動の複雑性を考えることなどはない。幸いなことに、データサイエンスの専門家であるフィリピン出身のエリカ・レガラ准教授は、通常ではないことを行う。

レガラ准教授はまず物理学の学位を取ったが、データサイエンスの職に方向転換し、シンガポール科学技術研究庁 (A * STAR) に入った。そこで彼女はチームメンバーと共に、各公共交通機関の乗客数の詳細な分析を行い、シンガポールの都市システムにおける移動、土地利用、輸送の価値を見出した。

2017年、レガラ准教授は教育と指導制度に関する熱心な主唱者としてフィリピンに戻り、同国初のデータサイエンス大学院プログラムのディレクターとしてアジア経営大学院に加わった。現在はそこのアボイティス・スクールの学長でもある。レガラ准教授はデータサイエンティスト志望者を指導しながら、複雑系科学の研究を続けている。データモデルを作成し、互いに関連するさまざまな情報から数値を抽出することで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、人類移動、自然災害などの現象の影響を調査している。

レガラ准教授はAsian Scientist Magazineとのこのインタビューで、この仕事を選んだ動機と、世界中のデータサイエンスの将来に対する希望を語った。

1. あなたの研究を一言でまとめると、どのようなものでしょうか。

ネットワーク科学から人工知能(AI)に至るまでさまざまな計算モデリング技術を使用して、社会経済、都市システム、サイバーフィジカルシステムなど複雑系のダイナミクスを研究しています。

2. 完了した研究プロジェクトの中であなたが最も誇りに思っているものを教えてください。

私が最も誇りに思っているものは、A * STARの高性能コンピューティング研究所で行ったシンガポール高速輸送システム内における通勤行動に関する研究です。関係者は私たちの研究を利用して通勤体験を改善するさまざまな仮定シナリオを検討することができました。

具体的には、分析モデルとエージェントベースモデルを使用して、列車の過負荷と過密状態を調べました。この研究は2つの国際的な賞を受賞しましたが、私が本当に誇りに思っているのは、政策立案者やその他の関係者がそれを役立てたことです。この研究から都市の複雑性に関するいくつかの研究と資金提供されたプロジェクトが派生しました。

3. 今後10年間の研究で何を達成したいと思いますか?

「見果てぬ夢」こそが、堅牢で普遍的な枠組みを作ると思います。経験的都市科学のほとんどの研究は、シンガポール、香港、ロンドン、チューリッヒなどの近代都市を対象としています。新興都市についてこのような研究を行えば、都市科学に大きく貢献できることでしょう。

私の個人的な希望は、シンガポールで開発した枠組みを、世界中の他の種類の都市、特に発展途上国で使用することです。 実際、私たちはこの実現のために、すでに具体的な措置を講じています。私が現在関係している取り組みの一つに、フィリピン第3種構成市のスマートシティプロジェクトがあります。

4. 誰(または何)がきっかけとなって、この研究分野に入ったのでしょうか?

フィリピン大学の国立物理学研究所 (NIP) で、何人かの指導者から大きな刺激を受けました。指導者は私に科学を行うことの美しさと世界レベルの研究を行い得られる充実感を教えてくれました。

このほか、私は学部生時代から複雑系科学に興味を持っていました。この研究自体が、記述しモデル化することを目的とする多くの複雑系と同じくらい魅力的で惹きつけられるものなのです。

5. あなたが研究で経験した最大の困難は何ですか?

私は幸運にも大きな困難に出会うことはありませんでした。私は、NIPにいた時からA * STAR、そして現在のアジア経営大学院の分析コンピューティング複雑系研究所に至るまで、育成チームに参加し、環境を整える活動を行っています。

その代わりに、高度に体系的な1つの困難、つまりデータ共有文化の欠如を困難として挙げます。これは、さまざまな関係者がいる現実世界のシステムで作業する場合に特に明らかになります。興味深いことに、私はデータ共有の問題がシンガポールとフィリピンの両方に存在することを発見しました。

シンガポールで約6年間過ごした後、エリカ・レガラ准教授はフィリピンに戻り、同国初のデータサイエンス大学院プログラムで教えている (写真提供:同准教授)

6. 今日の学術研究コミュニティが直面している最大の課題は何ですか?また、それらを修正するにはどうしたらよいでしょうか?

有能な指導者が不足していることと、科学に対する興味が低いことが考えられます。特に「基本的」または「理論的」とされている研究でその傾向があります。

最初の課題については、解決策の1つとして指導制度を世界に広げることが挙げられます。多くの国、特に成熟した科学文化をまだ持っていない国では、研究指導者が不足しています。名声のある世界的な科学者が時間を使い、十分なサービスを受けていないSTEM学生にオンライン指導を提供することができれば、学生だけでなく科学コミュニティ全体にも違いをもたらすことができるでしょう。

2番目の課題を解決するには、サイエンス・コミュニケーションを中心に据える必要があります。 一般大衆が、STEMとは何か、研究がどのように行われるか、そして人々、社会、世界にとって研究を行うことの潜在的な影響とは何かを理解することが必要です。

7. もし科学者にならなかったら、何になっていたでしょうか?

私の両親は共に現場の土木技師なので、私もおそらく土木技師になっていたでしょう。あるいは、建築家やインテリアデザイナーかもしれません。

8. リラックスするために、仕事以外で何をしますか? 興味のあることや趣味はありますか?

私は旅行が大好きです。ジャズ、ブルース、カントリーミュージックを聴きながら長いドライブを楽しみます。 また、論文やPythonスクリプトを書く間にピアノとギターを弾きます。その他、特にこのパンデミックを機会として、シリーズ番組を一気見します。

9. 力と資源を持ち、あなたの研究で世界の問題を根絶することができるならば、何を解決しますか?

気候変動、具体的には地球温暖化です。気候変動の影響は、地球上の生命のあらゆる面に影響を及ぼします。

10. アジアの意欲的な研究者にどのようなアドバイスをしますか?

科学者は細部に気を配る傾向がありますが、全体像を考えることも大切です。論文発表、特許、技術開示よりも、自分の研究が科学コミュニティだけでなく、社会全体にどのように影響を与える可能性があるか考えてみてください。これは、自分の研究を現場の仲間だけでなく一般の人々にも責任を持って伝えるための重要なスキルを習得することを意味します。

良い指導者を見つけましょう。 そして、自分の分野で十分に成長したら、自分が指導者になり恩返しをするのです。

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