幹細胞からエビ、カニ、ロブスターを生産へ...シオクミーツ社のリング博士

2022年02月17日 AsianScientist

シンガポール・シオクミーツ(Shiok Meats)社のリング・カ・イー (Ling Ka Yi) 博士と同僚たちは、動物から肉を採取する代わりに、動物質を含まない甲殻類の肉を細胞から採取する。

シオクミーツ(Shiok Meats)社のリング・カ・イー (Ling Ka Yi) 博士

AsianScientist - 環境保護論者は動物虐待とそれが引き起こす環境被害を理由として、産業畜産に対し長い間反対運動を続けていたが、世界中で肉の需要は増加し続けている。2013年には3億2000万トンの肉が生産されたが、これは50年前の生産量の4倍にあたる。

食物選択が環境に与える影響について消費者の意識が高まるにつれ、近年、Impossible FoodsやBeyond Meatなどといった多くの企業が登場してきた。肉の味を作るものについての理解が進んだことにより、植物由来の代替肉が主流となりつつある。

それでも、これらの製品は実際には肉ではない。最終的に肉のような味になるように作られた植物製品である。シンガポールを本拠とする企業、シオクミーツ(Shiok Meats)社の最高科学責任者兼共同創設者であるリング・カ・イー (Ling Ka Yi) 博士は、細胞培養肉、特に甲殻類の肉を使ったものに新しく一味加えたいと考えている。

「Shiokは、シンガポールとマレーシアの俗語で、『よい』、とか『おいしい』、とか『楽しい』といったことを意味します。ですから、Shiok Meatsは、エビ、カニ、ロブスターなどの甲殻類のおいしくてよい肉を、健全で環境に優しい方法で市場に投入することを目指しています」と彼女は話す。

このアイデアは、リング博士がシンガポール科学技術研究庁 (A * STAR) で幹細胞を研究しているときに、シオクミーツ社の最高経営責任者兼共同創設者であるサンディヤ・スリラム (Sandhya Sriram) 博士と出会った時に生まれた。 サンディヤ博士が動物の幹細胞を使用して細胞培養肉、特にエビの肉を生産するというアイデアを思いついたとき、リング博士は興味をそそられた。

幹細胞は、筋線維など肉と見なされる成分を含め、他の種類の細胞すべてを生み出すことができる細胞である。動物からわずかの幹細胞を採取し、高度に制御された環境でそれらを成長させることにより、動物質を使わない方法で肉を増やすことが可能である。

「動物から幹細胞を取り出し、肉に成長させます。 そして、出来上がった肉は、動物に存在するものと同じ肉です」(リング博士)

しかし、シオクミーツ社が話題になっているのはそれだけではない。 同社は消費者に対する製品の透明性を復活させようともしている。2014年の調査によると、エビ製品の30%には、エビの養殖場所などについて不正情報が記載されていた。

実際のところ、不正表示は高価な水産物の代わりに低価格の水産物を使用して消費者をだますためによく利用される。その他に、誤表示された水産物は、特定の水産物にアレルギーを持つ人や、高濃度の水銀を含む魚を避けようとする妊婦に健康上のリスクをもたらす可能性がある。さらに、水産物の出所を追跡できなければ、違法漁業とそれに伴う強制労働を助長させることにもなる。

「人々は、食べているものの原産地についてはっきりとは知りません。そして、原産地がどこであるか知らなければ、どのようにして成長させたのかも知ることはできず、最終的には健康に影響を与えるかもしれません」(リング博士)

しかし、細胞培養肉は、消費者が購入するものが最終形態であるため、その透明性を復活させる。

「細胞培養肉であれば、始まりと終わりが正確に分かります。当社はきれいな水を使用していますし、食品に侵入する可能性のある化学物質や汚染物質について心配する必要はありません。環境と私たちの健康に優しく、工程で動物に危害を与えることはありません」(リング博士)

しかしながら、リング博士は、細胞培養肉の実用化には、まだいくつもの課題があることを認めている。たとえば、コストを削減し、生産を拡大する方法を見つける必要がある。これには、食品製造業界からの支援が必要になる。一般大衆に受け入れられることも、別の課題である。

「細胞培養肉に抵抗する人々もいるでしょう。しかし、当社が行っていることについて説明し、何であるのか理解するようになると、ほとんどの人は批判的でなくなります」(リング博士)

リング博士は、間もなく商品化され、近く市場に参入する可能性があると期待している。エビ肉に加えて、ロブスター、エビ団子などの製品といった他の甲殻類の肉にも取り組んでいる。

リング博士は最後に、「5年から10年もすれば、夕食用に食料品店からシオクミーツ社のエビやカニのパックを購入できるようになるでしょう」と展望した。

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