ホタル研究から生物多様性のデジタル保全に寄与...シンガポールのジュソー 博士

2022年03月01日 AsianScientist

シンガポールのワン・ファリダー・アクマル・ジュソー (Wan Faridah Akmal Jusoh) 博士は点滅するホタルの研究から、時間の経過とともに生態系が進化してきたスナップショットをつなぎ合わせる作業を行い、シンガポールの生物多様性の保全に寄与している。

ワン・ファリダー・アクマル・ジュソー (Wan Faridah Akmal Jusoh) 博士

AsianScientist - 暗い空を背景にして、まるで音楽に合わせて踊るかのように、小さな光がリズムに合わせて点滅する。夜のパーティーを盛り上げるフラッシュライトさながら、これらの明るい光の正体はホタルである。

この見事な光のショーは、パシルリスパークや他の自然保護区のマングローブ林の周りを飛び交う約10種類のホタルが生息するシンガポールでは珍しくない光景である。しかし、2021年3月、驚くべきことに、チームはLuciola singapuraという名前の新しいホタル種を発見したと発表した。シンガポールでは、このような発見は100年以上なかった。

シンガポール国立大学(NUS)内にある博物館「リーコンチェン自然史博物館(Lee Kong Chian Natural History Museum :LKCNHM)」の特別研究員であるワン・ファリダー・アクマル・ジュソー (Wan Faridah Akmal Jusoh) 博士に率いられ、研究者らはL. singapura がマングローブ生態系の塩水条件とは異なる淡水湿地の森に独自に生息していることを発見した。

ジュソー博士らはこのような特徴を調査し、標本のDNAを分析することで、新しい種を特定し、あるいは既存の昆虫の系統を互いの近さの程度に基づいて再分類する。

「初めて新種を見ると、希望を感じます。好奇心が刺激されて、今あるものを探求して、将来を考えるように鼓舞される気分になるのです。今、この種が存在することが分かったならば、それを保護するために何ができるでしょうか?」とジュソー博士は問いかける。

ホタルは環境の変化に非常に敏感なので、健全な生態系の正確な指標となる、とジュソー博士は話す。都市開発から農薬の使用まで、人間の活動は光り輝くホタルを脅かすことがある。生息地を破壊したり、餌となる生物が潜む泥に有毒な化学物質を浸透させたりするかもしれない。

ジュソー博士は、2016年の調査では別の人為的な危険が人工照明の形で発生しており、シンガポールは世界最大の光害を生み出していると付け加えた。夜の満月でさえコミュニケーションや交配用信号として機能する光の点滅に干渉する可能性があるため、ホタルは明るく照らされた環境を避ける傾向を持つ。

幸いなことに、L. singapura が発見されたため、この光を放つ虫についての認識が高まり、個体数の急減を防ぐ積極的な取り組みを推進することとなった。ジュソー博士その他の科学者は、ホタルウォッチングなどの活動を認めつつ、自然の生息地に観光が与える影響を軽減するために地域社会に大きく関与できるベストプラクティスに注目している。

ジュソー博士にとって、新種の発見は、野生生物とその科学的記録の両方の保護という、彼女の重大な提唱活動と密接に関連している。科学者が新しい種の標本を確立できるのは他の既知の種と区別できる場合のみであるが、データのギャップによりこの分類作業が妨げられることは少なくない。

「最近採取された標本を検査するときは、新しい発見を確認する前に過去を再度調べる必要があります。そのためには、シンガポールの今までの種の記述について調べる必要がありますが、現在、このデータにアクセスすることはできません」(ジュソー博士)

このデータはシンガポールの自然遺産の一部であるが、適切な記録管理が行われなければ失われる恐れがある。LKCNHMでは、ジュソー博士が大規模なバーチャル帰還プロジェクトを指揮し、シンガポールと東南アジアの博物館でオリジナルの詳しい標本を示すデジタル画像とカタログのデータベースを構築している。

ジュソー博士はこのデジタルコレクションを通じてシンガポールの動物相の研究を加速させたいと考えている。しかし、種の詳細な記録は好奇心をそろる興味深い発見につながるだけでなく、生物多様性の保護を促す運動の支援にもなる。

広範で継続的な文書化を行うことによってのみ、科学者は生態系が経験した変化を把握し、時間の経過とともに繁栄し絶滅した種を追跡することができる。ジュソー博士は博物学のスナップショットを織り込み、シンガポールとそれ以外のアジア地域の過去、現在、さらには未来の種を永遠のものとしようとしている。

「博物学の収集と発見は、すべての国の種の保全にとって重要です。過去に何があったのかを知らない限り、現在何を失ったのか、将来何を失う可能性があるのかを知ることはできません」とジュソー博士は締めくくった。

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