AsianScientist-シンガポールのIPIイノベーション・アドバイザーであるオング・メイ・ホーング (Ong Mei Horng)博士から専門アドバイスを受けて、HarriAnns Nonya Table社は、パンデミックという難しい時期ではあっても、伝統的食品の地位を高め、市場での地位を強化する革新的な方法を見つけた。
会社の規模を拡大しようとしている中小企業の経営者にとって、やるべきことは増え続け、1日の中で何をすべきかチェックする時間はあまりない。ほとんどの起業家は、進行中のプロジェクトをやりくりし、日常業務を管理しながら問題解決も行っているため、ビジネスを次のレベルに引き上げることができたとしても、先を見越して新しい成長戦略を立てる時間はほとんどない。もしかしたらそんな時間は全くない。
HarriAnns社もそのような企業の一つだった。同社はシンガポールで活動する家族経営の企業であり、伝統的なプラナカン料理製品に誇りを持ち、「幸福は手作り」という哲学に基づいて事業を行っている。CEOのアラン・タン (AlanTan) 氏とディレクターのシャロン・ゴー (Sharon Goh) 氏は、伝統を守ることは重要であるが、会社が進歩と成長を続けるには変化を取り入れることが不可欠であると長い間信じていた。
IPIイノベーション・アドバイザーであるホーング博士から指導を受けることで、HarriAnns社は、皆と同じように1日の時間は限られているにもかかわらず、生産的なパートナーシップを追求し、技術力を強化し、成長を加速させることができた。
HarriAnns社にとって、革新的な食品科学と技術ソリューションを製造プロセスに組み込むことは、顧客層の拡大に必要であったが、プラナカン料理の基本を守ることも同様に重要であった。
「それは革新性と料理の真正性と消費者の受容のバランスをとる行為でした」とホーング博士。
たとえば、ケーキ、クッキー、ニョニャなどの菓子製品は同社の定番商品であったが、炭水化物含有量が多くグリセミック指数 (GI)も高いため、健康志向の高い消費者はそれらを避けることが多かった。
HarriAnns社をより健康的でクリーンなブランドとして再認識させるために、ホーング博士はAlchemy Foodtech社との協働を提案した。Alchemy Foodtech社が市販している繊維入り製品は、炭水化物を含む食品のGI値を低下させることが臨床的に証明されている。
数カ月の研究開発 (R&D) の後、HarriAnns社とAlchemy Foodtech社は、元のレシピの有機成分と相性のよい特別な繊維ブレンドを共同で開発した。このブレンドにより、HarriAnns社は、シフォンケーキや甘くておいしいもち米など、同社の代表的な製品の味と食感を保ちつつ、健康的な特徴を加えることができた。
HarriAnns社のアラン氏とシャロン氏は、努力が報われたことに勇気づけられ、食品技術者を雇い社内食品科学能力を構築することを決定した。新入社員がペースト製品シリーズなどを新しく作り、製品開発を加速させている。
シャロン氏はホーング博士について、「当社のビジネスニーズを満たす知識や技能を持つ候補者を決める上で重要な役割を果たしてくれました。それは中小企業の作業環境にうまく合うものでした。食品技術者を置くことで早くポイントをつかみ、さまざまな種類の製品を模索することができました」と感謝している。
HarriAnns社の長期的な目標は海外への拡大であることに変わりはないが、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生し食品飲料業界が苦戦している状況では、ブランドを地元で確立することがその目標を達成するための前提条件であった。
ホーング博士のアドバイスに従い、アランとシャロンの両氏は、特製のニョニャラクサ用ペーストなどの製品で使われる同社のパッケージ・デザインを変え、栄養成分表を加え、クリーンなラベル表示を実現した。その後、ブランド変更されたこれらの製品を会社のウエブサイトで販売し、オンラインで多くの関心を集め、パンデミックの低迷時ではあっても大きな収益がもたらされた。現在、これらのペーストは、スーパーマーケットチェーン大手の「NTUCフェアプライス」などによってもオンラインで販売されている。
食品技術とビジネスの両方の問題についてアドバイスする能力は、ホーング博士が食品飲料 (food and beverage: F&B) 業界で幅広いキャリアを持つからこそ可能であった。科学的専門知識をビジネスセンスに融合させ、主に研究開発を専門としてきたが、ヨーロッパ、オセアニア、アジア市場でF&N、ネスレ、ビタソイなどの企業でも製品開発を進めてきた。
このような経験から、ホーング博士はコンサルタントとしてさまざまな中小企業、ベンチャーキャピタル、研究センターに対し、包括的なアドバイスを快く提供。さらに同博士は、自身の多様なネットワークを活用して協働することを奨励し、中小企業が競争の激しい食品飲料業界で地位を高める機会を開いてきた。
「以前は自分たちで多くのことをしていましたが、機会費用が高く、間違ったことを追いかけているかもしれないということに気づいていませんでした。IPIイノベーション・アドバイザーは、欠けているものを理解させ、正しい方向に導いてくれました」とアラン氏は話した。
食品企業 (MNC、SME/LLE、新興企業) と食品研究機関のための食品スペシャリスト (SMF) であり、IPIのイノベーション・アドバイザーも務める。F&B企業が新製品と戦略、製品提供と技術の開発を通じて事業を革新し変革するよう支援。インダストリー4.0の国際規格、つまりスマートインダストリー準備指数 (SIRI) の認定評価者であり、高度な製造を目的とするインダストリー4.0の採用に向けて食品会社を支援することを望んでいる。さらに、シンガポール国立大学(NUS)の食品科学技術部の非常勤講師であり、シンガポールの米国大豆輸出評議会 (USSEC) -アジア大豆エクセレントセンター-食品タンパク質の専門家顧問でもある。
シンガポールのIPIは、中小企業 (SME) が製品、プロセス、またはビジネスモデルを進歩させる際のビジネス変革を可能にするために、ESGと提携して、2019年にイノベーション・アドバイザー・プログラムを開始した。強力な技術専門知識、人脈、ビジネス知識を備えた経験豊富な業界専門家である多くのイノベーション・アドバイザーらが、中小企業の加速的な成長を支援している。
(2022年03月28日公開)