ディープ・イムノミクス・プラットフォームで免疫学に革命...シンガポール

AsianScientist- イムノスケイプ(ImmunoScape)社のディープ・イムノミクス・プラットフォームは、がんから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)まで、治療やワクチンに対する個人の応答に新たな光を当て、病気との闘いに画期的手法をもたらす。

シンガポール科学技術研究庁 (A * STAR) のシンガポール免疫学ネットワーク (SIgN) の研究者らがチームを組んだのは2016年後半のことだ。彼らはがんなどの病気と戦うために、免疫療法の発見と開発を加速し、最新の免疫プロファイリング技術を活用するという共通の目的を持っていた。

研究室の無菌の壁を越えて大きな影響を与えるために、研究者らはA * STARからのスピンオフ会社としてイムノスケイプ社を設立した。共同創設者で科学顧問であるエヴァン・ニューウェル (Evan Newell) 博士によって開発されたコア技術がチーム独自のソリューションであり、侵入物質や正常に働かない細胞に対する免疫防御を解読するという希望をもたらす。

かつてない深度と規模で免疫系を解析することにより、チームは、病気に対する患者の好ましい応答を活性化できる、改善された治療法の開発を加速することを目指した。

この1年で2,500万米ドル(約30億円)という資金を調達した後、チームは感染症から慢性疾患まで、あらゆる種類の健康問題に取り組むことを目指している。本記事は、イムノスケイプ社のテクノロジーが免疫細胞の複雑な世界をどのように捉え、病気との闘いに影響を与えるのかについて記す。

多様性と深さを組み合わせる体は菌やがんの脅威と戦うとき、病気を引き起こす病原体や腫瘍細胞を中和するために、免疫細胞の多様な武器を要求する。特にT細胞は戦闘用に非常に特化された細胞である。

キラーT細胞はそれぞれが、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を破壊するために、独自の受容体を持っている。受容体は、細胞死を引き起こす有毒な顆粒を放出する抗原と呼ばれる指定された構造を受け止める。

イムノスケイプ社のチームはこの多様性を十分に頭に入れ、効果的な治療法を設計する秘訣は、まず、患者の免疫応答の微妙な違いを包括的に理解することであると認識した。しかし、一つの細胞に対する知識とシステム全体に対する知識は異なるものであり、問題が長い間立ちはだかっていた。

イムノスケイプ社の共同創設者であり運用開発担当副社長であるマイケル・フェーリングス(Michael Fehlings) 博士は「いくつもの成功例はありますが、残念ながら免疫療法に応答しない人の割合は依然としてかなり高いのです」と話す。

失敗した治療法から何がうまくいかないかを調べ、新しい潜在的な創薬対象を見つけるために、イムノスケイプ社は、TargetScape®、TCR Antigen Profiling、UltraScape®、およびCytographer®という4つのテクノロジーを備えたディープ・イムノミクス・プラットフォーム( Deep Immunomics platform)を構築した。

フェーリングス氏によると、T細胞は免疫応答において主要な役割を果たしているため、当初はT細胞に焦点を合わせていた。そのため、TargetScape®は、抗原に反応するT細胞を、極めて稀なものであっても同定し、細胞の活性化レベルや機能状態などの特性を、単一細胞レベルで高感度に解析する。

イムノスケイプ社の共同設立者兼最高執行責任者であるアレッサンドラ・ナーディン(Alessandra Nardin) 博士は、「特定のターゲットと反応するT細胞が希少であり、ターゲットは多く多様な可能性があるために、今までこの研究は非常に困難でした」と述べる。

同社のプラットフォームは、TCR 抗原プロファイリングを行い、T細胞が反応する抗原に対する特異的な受容体の構造をさらに識別した。

チームはT細胞だけでなく、UltraScape®を使用してプラットフォームの機能を拡張し、単一のサンプルで免疫細胞の全範囲にわたる詳細なプロファイリングを提供する。これらのテクノロジーによって生成された豊富なデータがあることから、チームはすべてのデータを処理・統合し、免疫応答に関する重要な洞察を抽出する分析ツールである、Cytographer®の必要性も感じていた。

ナーディン博士は、これらの細胞がシステム全体でどのように相互作用するかを明らかにすることで、科学者と医師はそれぞれの治療が患者に何をするのかを理解し、望ましい免疫応答を引き出すのに優れている免疫療法またはワクチンはどれであるかを予測できる、と説明する。このような予測は、試行錯誤の必要性をなくし、そのため、より多くの命を救うことができるかもしれない。

「私たちが出す結果は、治療やワクチン接種を受けている患者の免疫細胞が進化する際の免疫細胞の特徴を示すものです。私たちは時間の経過に伴う個人の免疫応答について、正しくバイアスのないマップを生成します」と同博士は付け加える。

ディープ・イムノミクスを使う

プラットフォームは幅広いことを扱っている。そのため、がん、デング熱などを引き起こす細菌、および免疫細胞を解析するために、さまざまな研究ですでに使用されている。

ナーディン博士は、米ジョンズホプキンス大学、米国国立アレルギー感染症研究所と協力して、免疫システムに対するCOVID-19の影響を明確に描くことができた。それは、イムノスケイプ社のチームと同じ多様性と機敏性があったからこそである。

当時、ほとんどの研究は、B細胞と呼ばれる免疫細胞によって産生されるウイルスを中和する主な武器としての抗体反応に注目していた。一方、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に反応するT細胞プールの特徴については、やっと研究が始まったばかりであった。

しかし、ナーディン博士はイムノスケイプ社とそのパートナーが、T細胞反応はSARS-CoV-2に対する広範で強固なものであり、抗体反応が低下した場合でも変種に対する防御効果を持つことを説明した最初の例であることを教えてくれた。

パンデミック時にシフトを組んで研究を行い、距離を置かなければならない状況でも、フェーリングス氏は「協調精神が失われることはない」と語る。現在、イムノスケイプ社は、5人の緊密なチームから、シンガポールとサンディエゴにまたがる30人の献身的なメンバーから成り立つ組織へと成長した。

プラットフォームが免疫学研究における多くの障壁に対処するにつれ、チームはその規模と解決能力が継続的に向上すると考えている。単一細胞の微妙な変化と免疫応答全体におけるその役割を理解することにより、イムノスケイプ社は次世代の治療法に導き、我々の体に免疫細胞軍が病原体やがんを阻止する力を与えてくれる。

(2022年04月11日公開)

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