ロボット工学、健康、持続可能性の分野で注目イノベーション

AsianScientist - シンガポールの技術の中でもロボット工学、健康、持続可能性の分野で興味深いイノベーションが現れてきている。

シンガポールでは2021年、以下のような革新的なソリューションが数多く登場した。大学・空港ターミナルを動き回る掃除ロボットや、さまざまな身体的パラメータを測定する健康監視ウェアラブルなどだ。

今後の技術トレンドを見据えれば、シンガポールのイノベーション環境の中で次に現れるものが見つけられる。

イノベーションの1年

まず、ウェアラブル向けに設計された柔軟で伸縮性のあるプリントバッテリーが挙げられる。これは着用者の汗を使い、シームレスに充電できる。世界のウェアラブル電子機器市場は活況を呈しており、2026年までに740億3000万米ドルに達すると予想されている。だが、業界はバッテリーの寿命という大きな問題にずっと頭を悩ませていた。性能の低いバッテリーの課題を改善しようと、地元のイノベーターたちは、従来の電源の代替となる、柔軟性を持つバッテリーを開発した。

次のテクノロジー商品は、食の安全を考慮したインテリジェント・ソフトロボティクス・グリッパーである。これは 現在の商用グリッパーの制限に対処するよう設計されている。3Dプリント技術を使い製造されたグリッパーと指は、複数のグリップモードを持ち、調整可能なグリップポーズができるよう設計されている。食品をつまむ、並べるなど特定の状況に合わせたカスタマイズも可能である。

最後に、食品技術の分野では、イノベーターたちが植物性タンパク質について栄養素の放出と抽出性を高め、収量と栄養吸収を増加させる前処理プロセスを開発した。この方法は、従来の乳化剤やゲル化剤、起泡剤に代わりクリーンラベル乳化剤として機能する機能性タンパク質を抽出することも可能である。食品業界も、より完全なアミノ酸組成を持ち、より安価な代替タンパク質から利益を得るであろう。

こんにちは、ロボット

未来に向けて、新たな一連の技術トレンドが世界を席巻しようとしている。テクノロジーとの相互作用を高め、健康への理解を深め、環境を保護することができる技術トレンドは、学界と産業界でさらに進歩し、道を開いていく。

社会の未来を変革しようとする進歩の1つとして、たとえば、拡張現実やブレイン・コンピューター・インターフェイス (BCI) 技術などといったヒューマン・マシン・インターフェイス (HMI) 技術が挙げられる。

未来的でありながら実用性の高い拡張現実は測位技術、感覚探知、顔認識、物体検認識、ディスプレイなどを開発することにより進歩し、仮想情報をリアルタイムで操作することができる。このような技術は、あらゆる産業に関連し、生産性、セキュリティ、効率性を向上させる可能性を秘めている。

一方、BCIは、脳波 (EEG)、筋電図 (EMG)、眼電図 (EOG) などの生体電気信号を使用し、外部環境で機械とそのさまざまな要素の機能を制御する。BCI技術は医療、教育、広告、セキュリティなどの分野に応用され、研究成果を上げている。

微生物叢にズームイン

微生物叢(そう)の研究も用途が広く、産業全体に適用できる。人間の体に生息する微生物の複雑な集まりは生態系を作り、食事や生活環境、抗生物質の摂取などの影響を受け、時間とともに変化していく。

過去10年間、遺伝子シーケンシング技術を通じて、微生物叢が免疫、メンタルヘルス、代謝に果たす重要な役割に多くの光が当てられてきた。

最近はゲノミクスとシステム生物学に投資が行われ、微生物叢の研究は一層活発になってきた。実際に微生物叢の研究が進むにつれて、イノベーターは次世代シーケンシング (NGS) を使用して各微生物叢が持つ独自の組成を評価する方法を開始するようになった。

これまでのところ、その評価は、各個人に対する食事と栄養の提案で役に立っている。プレシジョン・メディシン市場が活況を呈し続ける中、微生物叢研究とNGSアプリケーションが進歩したため、ターゲットを絞った個別化医療の新たな道をさらに生み出す可能性がある。

興味深いことに、微生物叢の開発は、機能性食品、農業、牧畜、パーソナルケア、化粧品などの産業にも適用可能である。

炭素削減

炭素排出削減技術は国連の2015年パリ気候変動協定以来、脚光を浴びている分野である。前進を続ける中、新たな発達と拡大が生み出されている。

現在、削減技術は2つの異なる分野に分けることができる。1つは、クリーンで再生可能な太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力、バイオ燃料などの代替エネルギー源を通じ、生産段階で二酸化炭素(CO2)排出量を削減することである。たとえば、シンガポールは年間4,000トン以上のCO2を相殺すると予想し、45ヘクタールのフローティングソーラーファームに投資した。

もう1つの方法は、主に炭素回収と利用 (CCU) という生産後の段階に焦点を当てている。この方法は、CO2を捕捉し、それをメタノールやメタンなどの有用な物質に変換する。CCU技術の成功例としては、熱分解、電気還元、微細藻類の変換などが挙げられる。実際、シェルやエクソンモービルのような大エネルギー企業は、排出量ネットゼロを実現させるために、すでにそのような技術に多額の投資を始めている。

国連は2030年までに世界の炭素排出量を2010年比で45%削減し、2050年までに排出量ネットゼロを実現することを目指している。炭素排出削減技術は持続可能な未来における最善策であろう。

(2022年05月25日公開)

上へ戻る