新型コロナの空気感染防止へ建物ごとに空気をモニター...環境検査で地域社会を安全に保つ

AsianScientist - 環境検査は、感染症の蔓延を監視し抑制する良い手段となる。

迅速抗原検査からゴールドスタンダードのRT-PCR分析まで、検査と接触追跡は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延を食い止めるのに有効であり、我々の生活の中で定番となっている。何と言っても、発熱やくしゃみといった症状の多くは、一般的なインフルエンザなどの他の病気と同じである。念のために言っておくが、コロナ症例の多くはほとんど症状が見られない。

イベントや学校などの対面活動が再開された中、医療従事者や当局は、制限が緩和されても、病気の感染を低く抑えることができると期待している。COVID-19感染者の急増に注意することは、地域ごとの閉鎖や検査体制の強化など、迅速かつ効果的な公衆衛生対応を開始するために極めて重要である。

しかし、適切な監視システムがなければ、ウイルスは地域社会全体で密かに広がる可能性がある。これを防ぐ答えは、個別のスクリーニング以上の、さらに広範な環境検査に移行することであろう。つまり、地域社会全体の健康モニタリングを行い、臨床診断を補足するのである。

空気を読み取る

検査はCOVID-19の診断に重要であることに間違いはないが、このようなリスク軽減政策は、検査が行われてこそ有効である。しかし、特に低所得世帯では、検査を避けることがあるかもしれない。陽性と診断されると仕事を続けられなくなったり、支出が増えることを恐れて検査を見送る可能性があるためである。

検査体制が整っている地域社会でも、感染予防は陰性となればいいというような単純なものではない。問題の一つは、COVID-19のウイルス因子であるSARS-CoV-2は空気中に拡散し、換気が十分でない場所ではウイルス粒子が長く滞留することである。

この空気感染という感染様式を考慮し、インドネシアに拠点を置くマイクロバイオーム・微生物診断会社であるNusanticsは、ソリューション研究会社であるSartoriusと提携し、空気の質のモニタリングがSARS-CoV-2の検出と健康政策への情報提供に有効な方法となるか検証した。

チームはSARS-CoV-2を定量化するAirScanという手法を開発した。この手法はSartorius社のMD8エアサンプラーを使用して空気を捕捉し、Nusantics社のmBioCoV-19RT-PCRキットを使用してウイルスの遺伝物質を検出する。チームはまず、チャンバー内のウイルス放出をシミュレートしたところ、発生源から12メートル離れた場所でも、空気1リットルあたりSARS-CoV-2ゲノム換算で3コピーまでなら正確に検出できることを確認した。

Nusantics社の共同創設者であり最高技術責任者であるレベタ・ウタマ (Revata Utama) 氏は、「MD8エアサンプラーはゼラチンフィルターに加え、流量と収集時間を調整できるため、SARS-CoV-2を定量するために正確な量の空気を収集することができます」と述べる。

このような特徴から、保持効率は高く、効率的なウイルス粒子の回収が可能となり、実質的にSARS-CoV-2粒子のMD8容器からの流出を防ぎ、RT-PCRによる検出を促進することができる。以前のことになるが、Sartorius社の科学者たちと協力者たちは、季節性インフルエンザ (H3N2) ウイルスを含む空中微生物を収集するためにゼラチンフィルターを設計したことがあった。その後、中東呼吸器症候群(MERS) が発生した時、空気モニタリング手法でMD8装置を使用した。

チームは今回、地元のモスク(礼拝所)、映画館、学校のキャンパスなどさまざまな場所で検査を行い、手法の有効性をさらに検証した。空気の流れや場所の広さにはそれぞれ違いがあることから、各場所を分割し、それぞれの小領域にサンプラーを配置することで対応し、SARS-CoV-2粒子の効果的な捕捉と正確な定量化に成功した。

地元の映画館に設置されたSartoriusのMD8空気サンプラー。空気を捕えてウイルス粒子の検出を可能にする (写真:Sartorius)

チームは空気の質を監視して、COVID-19感染リスク指数も開発した。この指数はロックダウンや他のパンデミック対策に関する決定に役立つアラートレベルシステムと同様のものである。ウタマ氏は、これらの環境監視の取り組みと個人別検査その他の健康関連手法を組み合わせることで、COVID-19曝露のリスクを最小限に抑えながら、経済を再開する道を開くことができ、人々が安全を犠牲にすることなくさまざまな活動を楽しむことができるようになると説明した。

「私たちは、空気中のSARS-CoV-2だけでなく、病気の発生を引き起こす可能性のあるその他の呼吸器病原体も検出することを目指しています。また、Sartorius社と協力して、人間の活動が環境微生物叢に与える影響を深く理解したいと思います」(ウタマ氏)

水を検査する

環境モニタリングの意義は、COVID-19のような空気感染症に限定されない。デング熱や寄生虫感染症などの無数の病気は、衛生状態の悪さに関連している。そのため、廃水や飲料水中の病原体の存在を検出するためにさまざまな方法がすでに使用されているが、その主な目的は清潔で安全な水へのアクセスを確保するためである。

科学者たちは、感染症の蔓延を監視する上で廃水検査の意義も認識している。たとえば、汚染された水を飲むと、下痢や嘔吐を特徴とするジアルジア症などといった水系感染症を引き起こすことがある。

排水から検出される病原体は、地域社会における病気の広がりを監視するのに有効である。 (写真:イワン・バンドゥラ /アンスプラッシュ)

COVID-19パンデミックの初期に、シンガポールの国家環境庁 (NEA) は、廃水監視研究を即座に開始し、地域社会の感染リスク減少に役立つ手法を開発した。

NEAの微生物分子疫学部長のジュディス・ウォン (Judith Wong) 博士は「2003年のSARSの発生以来、コロナウイルスが人の便に見られることがわかっていたので、COVID-19の状況を評価し、対象を絞った臨床試験の決定の指針とするために廃水監視を開始しました」と説明する。

たとえば、リスクの高い地域で排水監視をしたところ、下水システムでウイルスが検出された。検疫中の人々のうち症状を報告した者はいなかったが、臨床試験で1つの陽性症例が見つかった。

ウォン博士は、このように早期に症例が検出されたということは、廃水検査は感染管理戦略に役立ち、価値があることを意味すると強調した。さらに、この方法を使うと、人々の健康行動や最新の臨床検査指針など、関連する情報を得ることができるという。

「廃水検査は流行病の感染率に関する新たな指標となります。たとえば、廃水中のウイルス量の増加は感染の増加を示し、ウイルス量の減少は介入措置が働いていると考えられます」とウォン博士。

NEAは、2020年5月に廃水監視を8カ所から開始して以来、440カ所まで拡大した。シンガポールにとって、廃水監視はパンデミックとの戦いの重要な要素であることを示している。さらに、シンガポール全体でコロナに対する回復力を得るために、この戦略はリスクの高い地域での早期症例検出から状況認識の提供へと変化してきた。現在の方法は、ウイルス量が十分であれば、新たな変異を検出することもできる。

ウォン博士は「研究開発により、COVID-19用に設定された廃水監視システムは他の感染症に拡大できる可能性があります。これらの監視プログラムは、公衆衛生を長期間守るために重要です」と話す。

健康モニタリングを進歩させる

空気であれ水であれ、環境モニタリングはとても大きな規模で病気を検出できる、重要な方法である。環境モニタリングを採用すると、症例の急増などといった傾向を把握することができ、一般大衆の臨床検査への参加率に関係なく、別の正確な指標として機能する。急速に変化する状況をほぼリアルタイムで把握することで、保健当局はさらに適切な判断を下し、適切な公衆衛生措置に向けて迅速に方針を変えることができる。

公衆衛生と環境は常に影響し合っていることから、世界保健機関は、病気の蔓延に対して効果的に介入するワンヘルスアプローチを積極的に推進している。このアプローチは人間の健康と地球の健康の相互依存性を意識して、医学から政策立案までさまざまな分野を橋渡しする。公衆衛生の取り組みからよい成果を出すために、環境モニタリングはますます重要になっている。

強力な健康監視システムがあれば、地域社会は進行中のパンデミックに対しうまく戦えるようになり、感染症全体に対する公衆衛生の実践を向上させることができる。

(2022年05月26日公開)

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