次世代のライフサイエンス人材を養成-シンガポールPSBアカデミー

AsianScientist - シンガポールのPSBアカデミーは、設備が整った施設に加え、オーストラリアのラ・トローブ大学(La Trobe University)の著名な教員から学ぶことができる機会も与え、柔軟なライフサイエンス教育を学生に提供する。

この2年あまり、飛行機は飛ぶことがなく、休日はステイホームとなったが、国境は再び開き始めた。多くの人が飛行機を利用して休暇を楽しみ、家族と再会している。出国時と入国時には通常、旅行者はスワブ検査を受けて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染をチェックし、ウイルスが国境を越えないことを確認する。

実際、仕事やイベントで集まる前には検査が義務化されているため、職場やコミュニティでは長い綿棒とポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) 機器が当たり前の存在となった。これは、診断機器とバイオテクノロジーが私たちの生活に与えた影響の一例に過ぎない。

COVID-19に対する取り組みが進むにつれ、世界の医療技術市場は成長を続け、2028年までには約6,579億8000万米ドル(約88兆円)に達すると予想されている。このような新興医療技術を開発できる多くの人材を作り上げるために、シンガポールのPSBアカデミーと豪ラ・トローブ大学は、強力なライフサイエンス教育と柔軟なバイオテクノロジー・バイオインフォマティクスのマスタープログラムを提供するためにタッグを組んだ。

好きなことを選択できる

PSBアカデミーの新しいバイオテクノロジー・バイオインフォマティクスのマスタープログラムは、薬学から分子生物学、化学にわたる分野で4つのライフサイエンス学士プログラムを提供するだけでなく、地域の人材を育成し、卒業生のスキルアップを図ることを目指している。

コースも非常に柔軟に作られている。学生は、正規生または定時制学生のいずれかを選んでのコースを修了することができる。いずれの場合も、学生は最初にPSBアカデミーで8つのコアモジュールを終了する。シンガポールの次世代のライフサイエンス人材を強化するために、これらの8つのコアモジュールには、バイオテクノロジーとバイオインフォマティクスの両方の授業が含まれる。

その後、PSBアカデミーでさらに8つのモジュールを終了する高度バイオインフォマティクス・コースか、オーストラリアのラ・トローブ大学に行く研究プロジェクト・コースのどちらかを選択できる。

コア能力をさらに高めるために、高度バイオインフォマティクス・コースの一部はプログラミング、人工知能 (AI)、データマイニングなどのテクノロジーに関するモジュールを提供する。

最初の学年では、学生は実用的なバイオテクノロジーを学びながら、PCR、クローニング、タンパク質発現、タンパク質精製、イムノブロッティングなどのラボ技術を試してみる。この分野での研究の実施に必要な技術能力の構築に役立つ。

バイオインフォマティクス分野の中でも重要な新技術である高度バイオインフォマティクスを学ぶことを選択した場合、学生はデータモデリング、機械学習、ディープラーニング、統計手法などのAI技術について学ぶ機会が得られる。また、バイオインフォマティクスのAIをDNA、RNA、タンパク質の構造への適用方法についても学ぶ。

このコースは、実践的で全体論的な教育を提供することに特化しているが、プロジェクト管理およびサイエンスコミュニケーションに関するモジュールも備えている。学生は、大規模な情報技術プロジェクト、スケジューリング、コスト、資源などを管理するスキルを身に付ける。これらはすべて、あらゆる業界で使える貴重なスキルである。

学習のためのラボ

PSBアカデミーのSTEMキャンパス。学生は最新の機器を備え設備の整った研究施設やラボを利用できる

学生は本格的なラボなど設備の整った研究施設を利用して、シラバスを確実に実現することができる。実際、PSBアカデミーは最近、高度な研究機器に約10万シンガポールドル(約900万円)を投資した。

PSBアカデミーは、シンガポール滞在を選択した学生に対応するために生命科学研究所と化学研究所を設立した。関連する教育ツールと研究ツールが揃っているので、学生たちはシンガポールで研究プロジェクトを行うことができる。

さらに、PSBアカデミー全体での各学部間の関係は相乗的なものであるため、すべての学生は大きな利益を得る。特に、バイオインフォマティクスの学生は、コンピューター関連施設を利用でき、工学部の専門家による講義を受けるという充実した内容になっている。

研究プロジェクトは、コースの非常に魅力的な要素である。ラ・トローブ大学で学ぶ学生には、研究プロジェクトを選ぶことでプログラムの2学年を終了するという選択肢もある。

学生は、提携企業から得たデータセットを扱う応用研究プロジェクトを実施することもできるが、これは企業の監督下で行われる。このプロジェクトはPSBアカデミーまたはラ・トローブ大学のいずれかで実施され、すでに職を持ち、キャリアアップのためにコースを受けたいと思う修士課程の定時制学生にとって特に役立つ。

PSB アカデミーは、魅力的な選択肢と講義を通じ、学生がよい結果を出せるようにするだけでなく、バイオテクノロジーとバイオインフォマティクスの分野で新しく、進歩的で画期的な道に到達することを目指している。

PSBアカデミーの生化学分野の講師兼モジュールリーダーであるセアー・セング・ウィー (Seah Seng Wee) 博士は「わずか10年前、mRNA(メッセンジャーRNA)テクノロジーが命を救うとは誰も想像していませんでした。また、遺伝子編集が医療ツールとして使えるとは誰も考えていませんでした。しかし、CRISPR(ゲノム編集技術)を研究する科学者が2020年、ノーベル賞を受賞しています」と話す。

同博士は「テクノロジーは非常に速く進歩します。学生たちは、テクノロジーとデータサイエンス機能と組み合わせれば、将来起こりうるパンデミックやワークスペースの進化する要件に対応することができます」と付け加えた。

(2022年05月31日公開)

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