AsianScientist - 2030年までに持続可能な都市に変身するというシンガポールの計画は、未来に向けての政策とトップレベルの技術の継続的な開発とともに急速に進歩している。
気候危機に対応せよという圧力が高まる中、世界の多くで持続可能なゼロカーボンの未来を築く取り組みが始まっている。この変化は産業革命やデジタル革命を超える規模で進んでいると考えられており、化石燃料エネルギーや機械を初めて使用したときのようにまさに革新的なものであると思われる。
国連の持続可能な開発のための2030アジェンダおよびパリ協定に基づく責任に従い、さらに進化した排出削減目標と気候イニシアチブを導入する企業や政府はますます増加しつつある。
そのため、シンガポール政府は2021年2月、持続可能な開発に関する国のアジェンダを推進するための全国的な運動である「シンガポールグリーンプラン2030 (SGP30)」を発表した。この計画は国の自然空間・都市空間やエネルギー政策・経済政策を対象とする5つの主要な項目を柱とし、シンガポールの生活のほぼすべての部分に影響を与え、シンガポールを持続可能性が高く住みやすい国に変えることを目的としている。IPIとパートナーたちは、グリーンソリューションへの移行を支援し、シンガポールを持続可能性の最前線に押し進めることのできる革新的なテクノロジーに注目している。
ネットゼロの未来を実現するためには、エネルギー部門の脱炭素化が重要である。これは、廃棄物を最小限に抑えながら、材料や資源の価値をできるだけ長く維持する循環型経済を確立することで実現できる。エコデザイン、リサイクル、リユースに取り組めば、製品のライフサイクルで発生する温室効果ガスの排出を大幅に削減することができる。
回収して再利用可能な主な資源の1つとして「熱」が挙げられる。事実、人間の活動によって生成されるすべてのエネルギーの半分以上が廃熱として失われる。この廃棄部分の多い資源を利用するために、イノベーターたちは、再生可能エネルギー源として熱を捕捉して再利用する方法とデバイスを考案した。
たとえば、産業工程から回収された熱を動力源として、電気を使わないポンプがある。このポンプを使用して、処理プラント内で液体を輸送し、循環させることができる。このポンプは、化石燃料に依存することなく、コストが低くメンテナンスの手間が少ない機械的動力を作り出すことができる。
廃棄物エネルギーのほとんどは非生分解性プラスチック廃棄物の形で閉じ込められている。焼却廃棄やエネルギー集約的なプロセスでリサイクルすると汚染を生み出すが、革新的な化学プロセスを利用すれば、プラスチック廃棄物を燃料、化学工業原料、さらには塗料に変換することができる。
ポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック廃棄物をカーボンブラック、油、ガスに分解した後、触媒を入れた反応器でガスを燃料とカーボンナノチューブに変換する。これは、人類のプラスチック問題を解決すると同時に、必要性の高い電源と材料を生成することができるという一石二鳥の技術である。
農業技術の分野でも研究開発が急速に進んでいる。実際、この分野への投資は2014年から2020年にかけて、世界中で370%も大きく増加した。この分野は強靭性と適応性のある解決策を模索しているため、革新的な種子技術から人工知能(AI)を利用した精密農業ソフトウェアまで、気候非常事態がもたらす課題に対する斬新な発明が数多くある。
このことから、少ない排出量で農業とたんぱく質生産が可能な新しい方法が取り入れられた。その一例として、シンガポールの食品庁、科学技術研究庁(A*STAR)、南洋理工大学(NTU)の共同パートナーシップであるFuture Ready Food Safety Hub (FRESH) が挙げられる。
何名かの研究者たちはIPIのfuturepulseポッドキャストで講演を行い、FRESHはシンガポールの食品科学能力を強化し、規制当局、研究者、業界関係者の間の協力を促進することを目的としており、シンガポールの食の強靭性を構築する態勢を整えていると語った。都市農業と代替たんぱく質に重点を置いた次世代農業センサーや消費者に優しい植物性たんぱく質などのイノベーションは、たんぱく質に対する増加する需要を満たすために必要な資源を大幅に削減しながら、持続可能性の高いサプライチェーンに貢献することができる。
自動車産業の課題に取り組むことなしに、完全なゼロカーボンの未来を作ることはできない。電気自動車 (EV) の炭素排出量は、従来の内燃機関 (ICE) 自動車の半分であり、はるかに環境にやさしい。そのため、電気モビリティへの移行を拡大することが最も重要である。
EVテクノロジーが急速に進歩し、コストが大幅に下がるにつれ、政府や政策立案者は、より環境に優しいEV自動車を優先させ、炭素を大量に消費するICE自動車の段階的廃止を一層重要視している。
たとえば、EVの購入費用が下がり続ける中、SGP30は環境に優しい車の採用に向けた取り組みを強化する包括的EVロードマップを発表した。実際、2020年代半ばまでにEVとICE自動車の購入費用は変わらないものになると予測されている。
さらに、EVのカーシェアリングを提供するBlueSGのように実りある取り組みが行われていることから、EVを共有することで交通渋滞を緩和し、二酸化炭素(CO2)排出をなくす可能性が見えてくる。一方、EVの普及には、需要に見合った充電インフラの整備が必要である。シンガポール陸上交通庁は、EVの普及を促進するため、全国的なEV自動車充電ネットワークの展開を促進し、2030年までにEV自動車の充電ステーションを6万箇所設置する目標を掲げている。このような変化は、シンガポールの強固なEVエコシステムを支え、国の自動車排出量を劇的に削減することであろう。
実現可能なテクノロジーを模索する企業は、IPIイノベーションマーケットプレイスで関連性のある多様なテクノロジー商品を見つけることができる。また、イノベーションサポートが必要な技術やビジネスニーズを公開することができる。
(2022年06月20日公開)