共同ラボスペースで新興バイオテク企業を支援...NSG BioLabs社、アジアのヘルスケアに革命

AsianScientist - シンガポールのNSG BioLabsは共同ラボスペースである。新興企業が活躍できるプラットフォームを構築し、バイオテクノロジー関連の新興企業にとって重要な存在となっている。

新興企業を立ち上げ、ベンチャー企業として成功することは困難であると誰もが知っている。我々の生活を変えることができる何かを作り上げるためには、十分な気概と深い情熱を必要とする。バイオテクノロジーに関する新興企業は成長を続けている。がんや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)などのさまざまな病気、抗生物質耐性などの複雑な問題に取り組むために、今は、革新的な形の薬剤、診断ツールやデバイスを生み出す道を急速に切り開こうとしている。

アジアでバイオテクノロジー新興企業の活動範囲が急拡大する中、シンガポールには、有望なプロジェクトや新興企業の設立のために必要な場を提供し、原動力を与える企業が存在する。

NSG BioLabsは、シンガポールのバイオポリスロードに所在する共同ラボ兼オフィススペースである。バイオセーフティレベルは2 (BSL-2) であり、2019年後半にダフィネ・テオ (Daphne Teo) 氏によって設立された。この研究所は多様性を持ち、新興企業がすぐに研究開発を開始できるよう、必要な機器、ツール、試薬が完備されている。NSG BioLabsの成長と発展そのものが、テオ氏の学歴、科学への興味、そして投資銀行と不動産会社での勤務経験の集大成なのである。

開始

シンガポール生まれのテオ氏は、幼い頃から科学に強い関心と興味を持っていた。成長した彼女は米国のパデュー大学で工学学士号を、スタンフォード大学で工学修士号をそれぞれ取得したが、その後はシンガポールと香港の投資銀行に勤務した。少し変わった経歴の持ち主である。やがて家業の不動産業を手伝い、東南アジアや北米で安全な投資を行い、また、不動産プロジェクトに携わった。これらすべては、テオ氏がリーダーシップと管理スキルを得る役に立ったが、彼女の心は科学に向いていた。

「2、3年で不動産プロジェクトを終了したところ、私たちは望むものを何でも追求できる良い状態にいたのです。その時、私は世界に影響を与える何かをしたいと思っていました」とテオ氏は振り返る。

その機会は、Engine Biosciencesの創設者がシンガポールでのビジネスの開始を支援するために彼女に近づいたときに、テオ氏の手元に飛び込んできた。Engine Biosciencesは、機械学習とCRISPRを使用して創薬ターゲットとなりうる遺伝子相互作用の解明を主に扱う企業である。「私には科学と工学の学歴があるので、非常に適切であると思いました。そして、私は大学で勉強したものに戻っていったのです」

共同創設者としてEngine Biosciencesに加わったところ、テオ氏は、会社が直面している大きな障害は必要な物理的スペースと実験装置がないことであるとすぐに気づいた。十分な大きさのラボを建てて機器を購入するには非常に多くの費用がかかり、会社が持つ資本の大部分を食い尽くしてもおかしくはなかった。それが、テオ氏がインスピレーションを得た瞬間だった!彼女はNSG BioLabs を設立した。利用しやすく、専門的に管理され、必要なものがすべて揃った共有ラボスペースを提供すれば、企業が短期間で追加資金の調達を心配せずにすむと考えたのである。

成功への道

新興企業にとって、成長期は常に最も困難な時期である。市場のニーズや要求を理解し、その要求に応えるために有用でユニークなものを作り出すのは、大変な作業である。しかし、テオ氏は興味深い挑戦を行った。市場分析も、SL-2ラボのレンタル料設定も、ラボ設立のロジスティクスもわからないまま、新しいベンチャー企業を立ち上げたのである。

「私たちが最初にNSG BioLabsを立ち上げたとき、シンガポールにはこのようなものはなかったので、何が起こるかは分かりませんでした。『知らないこと』が最も難しい部分だったと思います」とテオ氏は話す。 しかし、彼女は、だからこそ、トレンドセッターになるチャンスがあることを知っていた。 彼女がこのプロジェクトに取り組み始めたときはコロナ禍の真っ只中であったため、あらゆることはさらに困難であった。 「文字通り、残業なしの日はありませんでした」とも。

テオ氏はシンガポールおよび米国のクライアントや投資家たちとの間でいくつものZoom会議をさばきつつ、シンガポールに新しいラボを開設し、発展させ、すべての課題を乗り越えた。テオ氏は、振り返ってみれば、すべての経験のおかげで自分自身が打たれ強くなったとし、「私たちはスタート段階全体を生き延び、コロナ禍を生き延びたために、強靭になり、より強くなりました」。

現在、NSG BioLabsの事業は活況を呈している。20の企業がシンガポールにある2つの活動場所を利用している。新進気鋭のバイオテクノロジー企業や新興企業の活動開始を可能にするインキュベーションと支援を行い、影響力のある企業となっている。今まで NSG BioLabsを利用した企業の中には、T細胞受容体 (TCR) の迅速なプロファイリングを行い、固形腫瘍の治療に関連する新規TCRを同定する癌免疫療法に特化した企業であるImmunoScapeが挙げられる。また、感染症の診断検査キットの開発を行うシンガポールのバイオテクノロジー企業であるAcumen Research Laboratoriesについても言及したい。同社はパンデミックの初期にNSGBioLabsを利用して、シンガポールで最初のCOVID-19PCR検査キットを開発した。

意外なことに、大企業もNSGBioLabsに興味を示している。アプライドマテリアルズ、ロレアル、オックスフォードナノポアといった企業がラボスペースを使い始めたとき、テオ氏は驚き、「私たちが最初にNSGBioLabsを始めたとき、それは新興企業に役立つだろうと思っていました」。

「需要がどのようになるかはわかりませんでした。私たちは主に自社や他の新興企業のニーズのためにラボスペースを立ち上げたのですが、大規模な多国籍企業も私たちが立ち上げたものの価値を理解していることに嬉しい驚きを感じています」とテオ氏。

現在、テオ氏には第3のラボを作る計画がある。また、NSGトゥモローという新しい新興企業インキュベーション・プログラムの立ち上げも計画しており、会社が成長し続け、より多くのバイオテクノロジー新興企業が活躍できる場を作り、シンガポールとアジア全体のヘルスケアに革命を起こしたいと考えている。

(2022年06月27日公開)

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