シンガポールのイノベーション育成に尽力...「多国籍企業」パナソニック・シェル・ハイアール

AsianScientist - エネルギー部門の多国籍企業は、豊富な資源を活用して、地域のイノベーションを育成し、生まれたばかりの新興企業を支援し、地域全体に貢献するという重要な役割を果たすことができる。

世界が気候変動の壊滅的な影響対策に取り組む中、エネルギー部門では脱炭素化が盛んに行われている。炭素排出量の3分の1以上がエネルギー生成から発生するため、シンガポールでは政府や組織のさまざまなイニシアチブを通じてクリーンエネルギーへの移行が積極的に進められている。

屋上や貯水池に広がる多くのソーラーパネルから、シンガポール建築建設局のゼロエネルギービル(10年近くエネルギーを消費していない)まで、シンガポールの持続可能なエネルギー・イニシアチブの中心にはイノベーションが存在する。

これらのイニシアチブはシンガポールを持続可能性が高く気候変動に強い国にすることを目的としている。ただ、面白いことに、それらの多くについて多国籍企業 (MNC) が豊かな資源、経験、才能を提供し、応援してくれている。

特に、エネルギー部門の多国籍企業は、地元に活気のあるイノベーションの現場を創成し、有望な新興企業に力を与え、市民に多くの機会を提供することにより、持続可能性の高いシンガポールを実現する上で重要な役割を果たす。本記事を読んでいただきたい。MNCが開始したプログラムがシンガポールのエネルギー分野を発展させた様子が分かる。

地域のイノベーションエコシステムを育成

MNCには市場動向に関する幅広い知識がある。それを活用すれば、地域のイノベーションの発展を促進することができる。たとえば世界的な電子機器大企業であるハイアールによるハイアール・オープン・パートナーシップ・エコシステム (HOPE) を見てみよう。2008年に設立されたこのプログラムは、壁を越えて知識を教え合い、世界中の資源を共有しユーザーが自由に参加することで、製品とサービスの改善に役立つエコシステムを育成することを目的としている。

HOPEは、シンガポールにイノベーションセンターを設立した後、学術研究者や企業家との協力を続け、また、IPIのテック・イノベーションやStartup SGのSLINGSHOTなどといったイノベーション・イベントにも参加している。HOPEは人工知能 (AI)、持続可能な包装、スマート医療モニタリングその他の問題提起を行うことで、優秀な人々をビジネスニーズの解決策に巻き込んでいる。

HOPEは何年にもわたってオープンイノベーションの機会を提供し、多くのイノベーターが問題に取り組むのを支援してきた。たとえば、技術が十分でないため最初はうまくいくことのなかった新興企業には、製品を改善して商品化するために必要な資源を提供した。HOPEはまた、新興企業が顧客の傾向や好みを分析し、製品を完成させてニッチ市場で確立するよう指導した。

地元の未来の起業家や新興企業に力

クリーンエネルギーの問題では新興企業が存在感を増してきたが、MNCも重要な役割を果たしつつ成功に向かっている。 実際、エネルギー企業のシェルはグローバル・イノベーション・プログラムであるShell StartUp Engine (SSE) を実施している。設立したばかり、あるいは中堅どころのエネルギー分野の新興企業にとって、このプログラムは能力を開発し、スマートでクリーンなエネルギー環境でビジネスの成長を促進するのに有益である。シンガポール支部では、起業家は厳選されたワークショップ、知識共有セッション、展示会などに参加し、シェルの専門家による指導を受けることができる。さらに、プログラムを修了すると、参加者はSSEのプログラムパートナーであるエネルギー市場監督庁 (EMA) から、参加者の事業に対する独占的な助成金を獲得する機会も得られる。

「私たちは、新興企業から新しいアイデアと新鮮な考え方がやってくると考えています。新興企業は機敏で試行錯誤が早く、エネルギーシステムを変革し、ネット・ゼロの世界を実現するために必要なイノベーションの進行を加速してくれます」と、シェル再生可能エネルギー・エネルギーソリューションのシティソリューション担当責任者でありSSEシンガポール会長のエミリー・タン (Emily Tan) 氏は語る。「新興企業の創意工夫と進取の気性は、既成概念にとらわれず、新しい視点を得るための刺激にもなっています」とも。

ソリューションを効率的に商品化できる新しいビジネスモデルを開発したい新興企業には、シェルのメンターがプログラムを通して支援してくれる。そのような会社の1つがQuantified Energy Labs (QE-Labs) である。この会社はドローンとAIデータ分析を駆使して問題を持つソーラーパネルを検査し、検知する。 実際、QE-LabsはSSEを通じて新しいビジネスモデルを取り入れ、さらに、地元の太陽電力会社との試験的な取引を支援してくれる助成金ポストプログラムを得ることができた。

よい未来のために恩返し

MNCは新興企業を成長させるだけではない。生活を向上させ、地元の人々に新しい雇用機会を創出する革新的なテクノロジーで社会に貢献することもできる。そのような効果を生み出すために、大手電機メーカーであるパナソニックは「現場プロセス・イノベーション」を掲げ、「より良い生活、より良い世界」の実現を究極の目的として、顧客が直面する課題を解決している。

「現場」プロセスには、ビジネスと日常生活の両方に不可欠な行動が含まれる。パナソニックは、顧客の悩みを理解し、問題解決のための提案を共同で考え、状況を改善するフィードバックを求めることで、「現場」ソリューションを実現する。

シンガポールの拠点を設立して以来、パナソニックは、デジタルトランスフォーメーション(DX)、ロボット工学から食糧安全保障、次世代電子機器に至るまで、さまざまな分野のリサーチギャップに対処する研究開発センターをいくつも設立してきた。

パナソニックアジア太平洋企画担当は、「責任ある企業として、当社は社会全体への貢献に努めています」とし、 「そのため、当社は『シンガポールスマート国家』と『グリーンプラン2030』に向けて人材育成と共創を行い、革新的な取り組みを継続しています」と述べる。

ハイアール、シェル、パナソニックなど豊かな経験を持つMNCは、豊富な専門知識と資源を活用して、シンガポールの新興企業、経済、社会全体に対し、発展した未来のエネルギーを提供する。

(2022年07月08日公開)

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