AsianScientist - シンガポールを拠点に活動するバイオテクノロジー(バイオテック)分野のインキュベーター NSG BioLabsは、医療の革新を加速し、助成金、メンターシップ、ネットワーキングを通じて新興企業に力を与える新しいプログラムを立ち上げている。
ゼロから会社を立ち上げることは容易なことではない。限られた資源を最大限利用して事業を立ち上げ、運営するには、念入りに計画し、複雑なことを行える実行力が必要である。バイオテクノロジー新興企業の場合はさらに困難になる。物理的なラボを確保し、安全要件を満たし、研究開発を開始するために必要な機器と試薬を入手することに関連するコストは高額なためである。ベンチャー企業の場合、十分な資金を確保するのは至難の業であることは言うまでもない。
これは、ダフネ・テオ(Daphne Teo) 氏が2016年にEngine Biosciencesを共同設立したとき経験したことである。テオ氏にとってEngine Biosciencesは2番目の会社であり、3番目に設立した会社であるNSG BioLabsではCEOを務めている。
「技術系の新興企業とは異なり、バイオテクノロジー系の新興企業は自宅で会社を設立することはできません。設備の整ったバイオセーフティ・レベル2 ( BSL-2) のラボが必要ですし、そのようなラボを構築することは非常に費用がかかります。数百万ドルかかることがあり、専門知識が必要であり、竣工までに1年以上かかることもあります」とテオ氏は述べる。
テオ氏は自身の経験を基にして共有ラボであるNSG BioLabsを設立した。NSG BioLabsは現在、シンガポールのバイオポリスロードの2つの場所に20社を超えるテナント企業を抱え、その中にはロレアル、アプライド・マテリアルズ、オックスフォード・ナノポアなどの多国籍企業とシンガポールの将来有望なバイオテクノロジー新興企業も数多くある。ここでは研究開発に必要な物理的スペースと設備がすぐに利用できる。貴重なデータをベンチャーキャピタルに提供し、投資につなげることができるため、多くのテナント企業にとって成功は夢ではなくなった。
NSG BioLabsの利点をうまく利用したテナント企業の1つとして、デューク大学シンガポール国立大学医学部で設立され、がんの免疫療法を扱う企業PairX Bioが挙げられる。PairX Bioは規模を拡大する中で、作業を行うために大きなラボスペースを直ちに見つける必要があった。利用できる資金は限られており、独自のラボを作る費用は天文学的な数字となりそうであったため、2020年半ばにNSG ioLabsに支援を求めた。
また、NSG BioLabs のテナントであるPairX Bioは目覚ましい発展を遂げ、それが経験豊富な投資家からの追加資金につながり、テオ氏にとっても新たなサクセスストーリーになっている。
テオ氏は「物理的なスペースだけでなく、メンターシップや経験を共有できることがNSGBioLabsの利点です。実際、私たちのパートナーの1つは、PairX Bioの創設以来のメンターでした」 とし、さらに「バイオテクノロジー企業を初めて設立する者の多くはビジネス運営の経験がありません。NSG BioLabsのメンターは起業家として、また、企業のリーダーとして豊かな経験を持つので、NSG BioLabsは新興企業の支援に適しています。多くの人が、メンターシップと人脈は非常に役立つことを早い段階で感じます」と話した。
NSG BioLabsは、これまで多くの企業がラボや事業を拡大するのを見守ってきた。また、一部のテナント企業に対して投資家から新たな資金調達を得られるよう支援してきた。シンガポールとアジア全域においてバイオテクノロジー新興企業の世界は成長し、競争の激しいものとなっている。NSG BioLabsはこのたび、新規のプロジェクトが確固たる足場を築くことができるよう、メンターシップ・投資ファンドプログラムを開始することにした。
世界をリードするバイオテクノロジー企業であるアムジェンと、シンガポールで最大かつトップのバイオテクノロジー(バイオテック)インキュベーターであるNSG BioLabsは、3年間のゴールデンチケット・スポンサーシップを開始すると発表した。アムジェンのゴールデンチケット・スポンサーシップは、革新的なバイオテクノロジー新興企業が構想を実現できるよう開発されたNSGトゥモロー・プログラムの最初の大きな一歩を示すものである。
アムジェンは、このスポンサーシップの一環として、3年間にわたり、毎年1件「アムジェン・ゴールデンチケット」賞を授与する。受賞者は、NSG Biolabsのいつでも使用可能なBSL-2ラボを1年間無料で使用できる。その他、ラボの追加特典もあり、アムジェンの科学者やビジネスリーダーとの交流も可能となる。このプログラムには、資金が500万米ドル(約7億円)以下で、バイオテクノロジーの専門分野で研究を行っている、または特定の分野で新薬や治療薬を開発している企業または法人化前のプロジェクトが応募できる。
現在、シンガポール国外に拠点を置く企業であっても、シンガポールに子会社があればこのプログラムの対象となる。アムジェンの内部委員会は、申請書の審査を行い、その後行われるプレゼンテーションを審査してゴールデンチケット賞受賞者を選出する。審査委員会は提出物を検討し、2022年8月に5人の最終候補者を発表する。候補に選ばれた企業はオンラインで審査委員会に対しプレゼンテーションを行い、そして審査委員会はアムジェン・ゴールデンチケット受賞者の最終決定を下す。
このゴールデンチケットは、戦略的な助成金、スポンサーシップ、専門家ネットワーク、メンターシップを通じて有望なイノベーターを支援するNSG Tomorrowの最初のプログラムとして実施される。また、企業はNSG TomorrowとNSG BioLabsのネットワークを通じて、国内外の投資家から投資を受ける機会も提供される。
(2022年08月04日公開)