【AsianScientist】ヒマワリ・ピーナッツ油の廃棄物で汚染水からヘビメタ(重金属)除去 シンガポール

シンガポールとスイスの研究チームは、植物油製造の廃棄物を使うと汚染水から有毒な重金属を安価かつ効果的に除去できることを発見した。

次に食用油に手を伸ばすとき、その原料となった植物が飲料水の浄化にも役立つことを考えてみるといい。

シンガポールとスイスの研究者チームは、ヒマワリ油とピーナッツ油の製造から生じた残り物を使用して、汚染された水から重金属イオンを効果的にろ過できる膜を生成した。この浄化方法は電気をほとんど使わず、簡易であり、コストが安く、比重を利用する工程を使い、国際安全基準を満たしている。

シンガポールの南洋理工大学 (NTU) の博士課程の学生であり、主執筆者の スーン・ウェイロン (Soon Wei Long) 氏はこのプロセスにより「廃棄物の流れを再処理し他の用途に使用することができ、さまざまな産業用食品廃棄物を有益な技術に完全に活用することができます」と述べる。この研究はNTU の アリ・ミゼレス (Ali Miserez) 教授とスイスのチューリッヒにあるスイス連邦工科大学 (ETHZ) のラファエレ・メッゼンガ (Raffaele Mezzenga) 教授が共同で率いたものであり、Chemical Engineering Journal 誌に発表された。

油性の種子作物や油糧種子を食用油に加工すると、タンパク質が豊富な副産物である油かすが残るが、これは捨てられたり、動物に与えられたりすることが多い。しかし、研究チームは、油かすから抽出したタンパク質からアミロイド線維を形成できることを発見した。アミロイド繊維は密に巻きついたタンパク質分子からできたナノメートルの大きさのロープである。

アミロイド線維は非常に強力な吸着能力を持つ。つまり、重金属や放射性物質を引き付けて閉じ込める能力が非常に強い。これは、重金属や放射性物質の粒子を挟みながら水を通すアミノ酸結合によるものだとミゼレス教授は述べる。

「重金属は、水汚染物質の中でも主なものです。人体に蓄積し、がんや変異原性疾患を引き起こすことがあります。現在の重金属除去技術はエネルギーを大量に消費するか、稼働に電力を必要とするか、またはろ過の選択性が難しいのです」とミゼレス教授は説明する。

2016 年にミゼレス教授 が実験を行ったところ、牛乳のホエーで作られたアミロイド繊維が、モレキュラーシーブのように作用して、汚染された水から99% 以上の重金属を除去できることを発見した。しかも、ろ過プロセスでは電力を使わず受動的に行うことができた。

しかし、ホエーを使った受動的フィルターは、逆浸透膜のような能動的電気プロセスよりも持続可能性が高いようだが、ホエーは人間の食品の材料でもあるため、スケールアップにはコストがかかると思われる。

NTUとETHZの研究チームは、ミゼレス教授の発見と、大豆やトウモロコシの植物性タンパク質が非繊維状でも重金属を吸着することを示した他の研究結果を基に、大量に入手できる安価な材料として、油かすに着目した。2020~2021年の栽培年だけでも、世界中で2,500万トン以上のヒマワリ油とピーナッツ油が生産されている。

そこで研究チームは、アミロイド繊維の吸着効果を高めるために、同じように一般的なろ過材である活性炭を一緒に織り込んで、ハイブリッド膜を作製した。クロム、プラチナ、鉛で汚染された模擬廃水で試験を行ったところ、この膜は汚染物質の99.89%までろ過することができた。

チームは、1キロの油かすから約160グラムの使用可能なタンパク質を抽出できることを発見した。400ppbの鉛で汚染されたオリンピックサイズのプール(世界保健機関が定めた飲料水の安全基準値の40倍)をろ過するためには、わずか16kgのヒマワリの種のタンパク質で済むと推定した。抽出された重金属は、膜を燃やして処分できる。特に電子機器の製造に欠かせないプラチナの場合は回収することさえできる。

「私たちが生成した膜はタンパク質を利用し、製造過程は環境に優しく持続可能なものであり、作動時に電力をほとんど、またはまったく必要としないため、世界中で、特に開発途上国での使用に適しています。私たちの研究は、ヘビメタ(重金属)を飲料水の汚染物質としてではなく、音楽ジャンルとしてあるべき場所に置くものです」とミゼレス教授は語った。

(2022年09月09日公開)

上へ戻る