【AsianScientist】ラボから外に出て顧客と対話を-イノベーション・アドバイザーのロー博士

IPIイノベーション・アドバイザーのロー・ワーシン (Loh Wah Sing) 博士は50 年以上にわたるイノベーションと商業化の経験を持ち、ターゲット市場へと進出しようとする中小企業を支援している。

アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、レイザー(Razer) その他多くの有名企業は中小企業としてスタートしたが、絶えず変化する消費者のニーズに対応して国際市場に参入した。シンガポールの多くの中小企業は世界への進出を依然として目標としているが、それは簡単なことではない。

規則に基づく製品仕様の区別からまったく新しい市場のニーズの発見まで、初めて起業する者たちはグローバル化の過程で大きな課題に直面することがある。しかし、起業のベテランが味方にいれば、中小企業の海外進出はもっと容易になるかもしれない。

IPI イノベーション ・アドバイザーのロー・ワーシン (Loh Wah Sing) 博士はそのようなベテラン指導者の1人である。化学分野や素材分野での約 50 年の業界経験を活用して、中小企業が業務上の課題に対処し、世界での成長を目指す支援している。

調和のとれた仕事関係の構築

ロー博士はシンガポール科学技術研究庁の化学工学科学研究所の元副所長であり、化学、材料、精密工学、環境管理など、さまざまな分野で上級技術者や管理職の経験を持つ。

ロー博士の特に注目すべき発明として、持続性があり藻類に耐性を持つ塗料が挙げられる。これは、シンガポールのような湿度の高い気候に合わせて特別に開発されたものである。このソリューションにより、ロー博士はシンガポール・エンジニア協会 (Institution of Engineers Singapore) のイノベーター賞を受賞するなど高い評価を受け、塗料は1991年から公営住宅で使用され続けている。

ロー博士の専門知識は、概念実証から商品化まで、市場志向の技術の開発に向けられている。ロー博士は卓越した洞察力を持ち、中小企業が製品やサービスを開発し、商品化するときに直面する課題を特定し、解決することを助けてくれる。

ロー博士は、専門的な指導を求めるクライアントと親密かつ生産的な関係を育み、クライアント中心のアプローチを採用したところ、クライアントが直面する障害について深く知ることができるようになった。

「私は常に、市場と企業エコシステムの両方を理解するよう努めています。クライアントと徹底的な対話をすることで、クライアントの視点を知ることができます。すると、問題の根元が分かりやすくなるのです」とロー博士は述べる。

商業的成功のための重要なヒント

ロー博士は、自身の経験から、企業がよく直面する課題は、市場の詳細なニーズを理解し、それに合わせて製品を方向転換することであることに気づいた。彼は、コツコツとデータを収集し、小さい規模から始めていけば、企業は信頼性のある価値の高いソリューション開発に成功する可能性が高くなるという信念を持つ。

「ラボで作業するだけでなく、外に出て顧客と話してみることをお勧めします。市場のニーズについて私たちがイメージしていることと、消費者からの実際のフィードバックは、まったく異なる場合があります」

「顧客と十分に話し合わないイノベーターの多くは、実際の製品やサービスを作り直すことになります。極端な場合には無用の長物を作るだけで終わります」

ロー博士はこう述べる。ただ、スリーエム(3M) 社の研究所で作られた非粘着性接着剤のサンプルは大失敗と思われたが、その後、付箋のポストイットとして広く知られるようになったという。

ロー博士は科学者としてのキャリアを積み上げてきたため、複雑な科学的内容をわかりやすい言葉に変えて、顧客に理解させるコツも知っている。情報を明確で簡潔なものにすれば、コミュニケーションの誤解を防ぐことができ、顧客のニーズも、もちろん、よく理解することができる。

「高尚に聞こえる概念や複雑な化学反応を説明するのではなく、顧客が理解できる一般的な言葉で話すことができなければなりません」とロー博士は付け加えた。

企業に自立する力を与える

ロー博士は現在、IPI イノベーション・アドバイザーとしての経験豊富なスキルを活かして、Siang May社 に専門的なアドバイスを行っている。Siang May社は農業や水産養殖業から商業漁業やスポーツフィッシングなど、さまざまな産業で使用される合成繊維製品の製造市場のトップ企業である。

Siang May社はロー博士の支援を受け、資源を有効活用し高いコストパフォーマンスを実現することで既存顧客にも新規顧客にもメリットを与え、持続可能性に貢献することが可能な一連の新製品・新サービスを開発中である。今後は、社内の研究開発チームが地元の研究開発センターとの連携を拡大かつ強力なものにし、目標達成のスピードアップを図っていく予定である。

ロー博士はイノベーションと商業化の分野で豊富な経験を持つため、シンガポールのさまざまな業種の中小企業がその製品やサービスを海外に進出させるにあたり、支援や指導を行うのに適した立場にある。「自分の能力と専門の範囲内で、新しい中小企業を支援し、社会に還元できることは、私にとって意義深いことです」とロー博士は話している。

(2022年09月12日)

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