科学技術振興機構(JST)アジア・太平洋総合研究センターでは、調査報告書『ASEAN 諸国の先端研究機器・共同研究利用拠点整備に関する動向』を公開しました。
以下よりダウンロードいただけますので、ご覧ください。
https://spap.jst.go.jp/investigation/report_2022.html
ASEAN10 カ国を対象として調査対象である顕微解析機器、マテリアル等の分析機器、バイオ分析機器および加工プロセス機器について、1000 万円から10 億円程度の価格帯にある先端研究機器を抽出し、日本の公的研究機関や公立大学で利用されている機器とASEAN 諸国で利用されている機器の情報を整理して比較し、特徴を把握した。
顕微解析機器では、ASEAN 諸国においても日本電子株式会社(日本電子)やオリンパス株式会社(オリンパス)、株式会社ニコン(ニコン)等の日系メーカーの機器が複数の機関で利用されていることが確認された。またマテリアル分析機器においても、日本分光株式会社(日本分光)や株式会社島津製作所(島津製作所)、株式会社堀場製作所(堀場製作所)等の機器が確認された。しかし、日本と比べると、顕微解析機器およびマテリアル分析機器共に日系メーカーのシェアは低く、代わりに米Thermo Fisher Scientific 社や独ZEISS 社、独Leica 社をはじめとした欧米メーカーの設置が確認された。バイオ分析機器は日本においても欧米メーカーが多くの機関で利用されているが、ASEAN 諸国でも日本で利用されている機器と同様のメーカーやモデルが多く利用されていた。加工プロセス機器については、ASEAN 諸国において関連機器は散見されたものの、今回の限定的な調査範囲では、具体的な機器やメーカー、機種情報は確認できなかった。なお、調査の中で、中国メーカーの研究機器も確認されたが、先端研究機器という観点では、機器の整備はまだ限定的に見受けられた。
各国の科学技術政策の基本情報を整理した上で、先端研究機器・共同研究利用拠点に関する政策情報を整理した。その上で、20 の主要な共同研究利用拠点にインタビューを行い、運用実態を把握した。
ASEAN 諸国は、各国間の経済格差が大きく、研究投資額や科学技術振興への取組みにも大きな相違がある。そのため先端研究機器・共同研究利用拠点の整備についても違いが見られた。なお、ASEAN 諸国においては、共同利用のコンセプトは新しいものではなく、新興国においては高度な研究機器へのアクセスが限られることから、公的研究機関や大学が社会的使命の一環として、機器の貸し出しや試験サービスの提供を一般的に行っている。しかし、そのような動きに加えて、共同研究利用拠点を積極的に活用する動きが出てきている。新たな動きやユニークな動きも踏まえ、今回の調査ではASEAN 諸国における共同研究利用拠点を「先進」「独自発展」「過渡期」「今後検討」「時期尚早」の5 つに分類して特長を整理した。
シンガポールのように、政策に基づき、システムを活用して効率的なオペレーションを行う先進的な国もあれば、マレーシアやインドネシアのように公的機関の大部分を共同研究利用拠点にしてしまう取組みも存在する。また、経済水準が低く、先端研究機器の整備が限定的な国も存在する。
共同研究利用拠点のコンセプトは、多くの場合有益であることが共通認識として確認された。しかし、効率的・効果的に施設を運用することは簡単ではない。
ASEAN 諸国における科学技術協力基盤の構築への貢献として多様な方法が考え得るが、対象国のニーズによって、共同研究利用拠点が必要とする機能を個別またはフルパッケージで提供することが考えられる。各国の課題構造を理解した上で、政策策定支援、日系メーカー機器の提供、各種機器の管理・メンテ支援、技術者等の人材育成、運用ルール整備、運用のためのシステム構築等の様々な切り口から適切な支援を行うことが、AEAN 諸国の科学技術協力基盤の構築に繋がると共に、ASEAN 諸国における日本のプレゼンス向上、日本とASEAN 諸国の科学技術交流の促進に繋がると期待される。