【AsianScientist】ヘルステック・イノベーターらを支援―シンガポール・バイオデザイン

シンガポール・バイオデザインは、堅牢なプログラム、メンターシップ、ワークショップ、投資家と知り合う貴重な機会を通じて、地元のヘルステック・イノベーターらを支援する。

消費者向けの健康機器・医療機器から医療用インフラやワークフローの効率化まで、バイオデザインの手法はカスタムソリューションを作り上げ、医療の幅広い分野に対応している。

シンガポール・バイオデザインは2010 年に発足した。米スタンフォード大学で設立されたバイオデザイン・プログラムに倣うものであり、名高いStanford Byers Center for Biodesignの最初のアジア・グローバル・アフィリエイトである。

スタンフォード大学のプログラムと同様に、シンガポール・バイオデザインは、イノベーションとは一連のランダムな「ひらめきの瞬間」ではなく、指導によって学び、磨くプロセスであるという信念を重視する。シンガポール科学技術研究庁 (A*STAR) が主催する国家レベルの人材開発プラットフォームは、この地域のために医療やメドテックに関する次世代イノベーターたちを訓練し、育成することを目的としている。

イノベーション・フェローシップ・プログラムは、シンガポール・バイオデザインがこの目的を達成するために採用する方法の一つである。このプログラムは、医療技術を志望する者に人間的ふれあいのある研修とメンターシップを6 カ月間提供し、官民からの資金を競う機会を与えることに焦点を当てている。現在、バイオデザインの手法の習得と臨床上のアンメットニーズに影響を与えるソリューションの提供に強い関心を持つ人々の応募を受け付けている。

バイオデザインの背後にある大きなアイデア

バイオデザインは厳密な調査、フィルタリング、検証プロセスを活用するニーズ中心のアプローチを基本としている。イノベーターたちは試行錯誤して作成されたロードマップをに基づいて臨床ニーズを特定し、概念的なソリューションを考え出し、十分に練られた戦略を使いそのソリューションを実装する。

プログラム・ディレクターであるマリー・カン (Mary Kan) 博士は「バイオデザインのフレームワークには、適応性という強みがあります。この方法は、あらゆる医療分野の中にあるアンメットニーズを明らかにし、消費者と健康、規制対象の医療機器、医療IT、医療ワークフローの効率性に関して相互運用可能なソリューションを設計するのに強みを発揮します」と説明する。

アジアの医療インフラは、パンデミックと高齢化が重圧となり、ストレスがかかりひずみができているため、イノベーションがこれまで以上に重要になっている。バイオデザインのプロセスはイノベーションをサポートし、患者、医療従事者、公共部門など、すべての利害関係者のニーズに直接対応できる。

プロセスは、現場での観察と調査を通じてアンメットニーズを特定することから始まる。具体的には、注意を払いつつ目先の技術的な問題を超えて「よい」ニーズを特定する。次に、イノベーターたちはブレインストーミングを行い、可能性のある構想を作りあげる。最後に、チームは新しい技術を実装し商品化するための強力な戦略を策定する。

最初の一歩を踏み出す

シンガポール・バイオデザイン・イノベーション・フェローシップは、若いイノベーターたちの飛躍を支援する。そのために、アジアにおける臨床上のアンメットニーズに対応する新しい医療と医療技術のイノベーションの開発を専門的に行う学際専門家たちが6 カ月間の実践的なトレーニングを提供する。

イノベーション・フェローらは、今回のテーマである救急救命医療に関連する臨床上のアンメットニーズを特定するために、現場集中トレーニングを開始した

このプログラムには、エンジニア、医療専門家、業界専門家など、様々な人々が参加する。 チームはバイオデザイン教育法に沿ったトレーニングを受け、評判の高いメンターから医療技術イノベーション・ジャーニーに沿った指導を受ける。

「フェローは、臨床、技術、ベンチャー、産業などの関連分野からメンターの幅広い経験を活用することができます。中国やインドネシアなどのアジアの国々について、臨床上のアンメットニーズを十分に調査し、地元の医療と医療技術のエコシステムを深く理解する機会も与えられます」(カン博士)

フェローは組織の広範なネットワークを利用して、米シリコンバレーのパートナーと共に、主なプロジェクトの開発や改良を行うことができる。この独自のアプローチにより、フェローは豊かな経験を持つ市場参入の専門家と知り合い、フォローアップの資金を確保してプロジェクトの成果を確認する機会を得ることができる。

メドテックのギャップを埋める

2021年シンガポール・バイオデザイン・イノベーション・フェローたちは、渡米してFogarty Innovationのパートナーたちと会う機会を持った

今日まで、シンガポール・バイオデザインで学んだフェローは1000人を超えており、彼らは地元の医療と医療技術のエコシステムに大きく貢献している。43人の元イノベーション・フェローたちは20 の新興企業を起こし、50のイノベーション・プロジェクトを実施した。その一方、シンガポール・バイオデザインが運営するワークショップの卒業生は、500以上のイノベーション・プロジェクトに貢献した。

驚くべきことに、シンガポール・バイオデザインの卒業生たちは、業界のためになんと 8,700 万ドルもの資金を動かした。その一例が、2014 年のイノベーション・フェローたちにより設立されたシンガポールの医療機器会社、Privi Medical である。チームは、バイオデザイン方式を使用して痔の新しい治療法を開発し、米国食品医薬品局(FDA)と中国国家薬品監督管理局(NMPA)の両方の認可を取得した後、市場に参入した。2021 年、同社はトレードセールを通じて買収され、シンガポール・バイオデザイン・イノベーション・フェローシップの中で最初に投資回収に成功したプロジェクトとなった。

「私は、フェローシップが拡大し、熱意のある多くの医療・医療技術のイノベーターたちを惹きつけ、さまざまな分野、医療製品、地域に影響を与えることを期待しています。これを達成するために、シンガポール・バイオデザインは、フェローシップ期間中の教育とメンター制度の改善を続け、それと同時に、フェローたちの卒業後の進路のサポートも強化します。今後数年間に、卒業生が多くのイノベーションを市場にもたらすことも期待しています」とカン博士は話している。

(2022年10月27日公開)

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