【AsianScientist】アジアで多発の頭頸部がんに挑むチェオング教授

アジアの新鋭科学者たち:マレーシアのチェオング・ソク・チング (Cheong Sok Ching) 教授は、特にアジア人に多いがんとの戦いを提唱し、マレーシアでの医薬品開発研究を率いている。

チェオング・ソク・チング教授
キャンサー・リサーチ・マレーシア頭頸部がん研究部、シニアグループ・リーダー

私たちのほとんどは、がんと闘わざるを得なかった家族、友人、または同僚を持つ。がんは、世界の非感染性疾患の中でも死亡率が最も高い病気の1つである。世界保健機関(WHO)によると、2020 年にがんで死亡した人は世界中で約 1,000 万人いる。患者を回復させる治療法は数多くあるが、研究者たちは競い合って、がんを発生させ進行させるメカニズムそのものを正確に標的とすることができる、効果の高い治療法を開発している。

チェオング・ソク・チング教授はそのような研究者の一人である。彼女はがん遺伝学者であり、マレーシアに本拠を置く独立NPOであるキャンサー・リサーチ・マレーシアの頭頸部がん研究のシニアグループ・リーダーである。チェオング教授は母国でがんとの闘いに生涯を捧げてきた。

2018年以来、チェオング教授のチームはマレーシアと英国の研究者と協力して、MAGED4B およびFJX1という2 つの具体的な遺伝子を標的とする DNA がんワクチンを開発してきた。これらの遺伝子は、人の頭頸部の腫瘍を成長させる原因となっている。このワクチンは、MAGED4B とFJX1を抗原として使用し、これらの遺伝子が過剰発現している頭頸部がん細胞を認識し、狩るように体内の免疫細胞を訓練させる。このワクチンの臨床試験第1相はまもなく開始されるであろう。

チェオング教授はAsian Scientist Magazine誌に対し、世界中の研究者と協力してこのワクチンを開発した経緯、アジアにおける頭頸部がんの有病率、医薬品の研究開発への早期投資の重要性、および彼女の情熱について語り、影響力のある研究がマレーシアでマレーシア人によりマレーシア人のために、広範囲に実施可能であると強調した。

1. キャンサー・リサーチ・マレーシア (CRM) は、頭頸部がんワクチンの臨床試験を行うと発表して以来、多くのメディアの注目を集めています。なぜ頭頸部がんに特化するのですか?

頭頸部がんは、アジア人に多いがんです。世界で頭頸部がんと診断された患者の 3 人に 2 人はアジア人であり、頭頸部がんによる死亡の 4 分の 3 近くがアジアで発生していると推定されています。つまり、これは本質的にアジアのがんなのです。 欧米で頭頸部がんに対する投資が積極的に行われないのは、第1に、これが彼ら自身の問題と感じられないからです。第2に、仮にがん治療の薬があったとしても、欧米では頭頸部がんは一般的ながんではないため、その薬を試験するのに必要な患者があまりいません。だからCRMが存在しているのです。 私たちは、アジア人ががんとの戦いで取り残されることのないようにします。

2. 英国の研究者とのワクチン開発共同研究について教えてください。また、外部との共同研究が必要だった理由を教えてください。

私たちは、英国のサウサンプトン大学と共同で頭頸部がんワクチンの開発を行いました。このプロジェクトは、マレーシア科学アカデミーと英国医学研究評議会を通じて、マレーシア政府から資金提供を受けました。私たちは、ここ、つまり頭頸部がん患者がいる場所で試験を実施したいと考えているため、このような共同開発を行うことは非常に重要です。マレーシアの研究者にとって、製薬会社に対するバイオ医薬品のライセンス供与という点では、現在のところ研究開発環境はあまり発達していません。そして、協力者を通じて英国で存在感を示すことができなければ、ワクチンのライセンスを取得することは非常に困難だったでしょう。マレーシアの研究環境を発達させるために多くのことが検討され、投資が行われていると思いますが、私たちはまだそこまで達していません。このワクチンのライセンスを供与された人々や英国のパートナーと緊密に協力した経験が、次のがんワクチンの開発でも参考になればと思います。なぜなら、開発中のワクチンはこれだけではありません。

3. 保健省と科学技術省の共同ロードマップである「国家ワクチン開発プログラム」の一環として、頭頸部がんワクチンの「ファーストインマン」試験(人間を被験対象として初めて行われる試験)が行われようとしています。このプログラムは、コロナ禍の最悪時期にワクチンの入手が遅れたことについての対策であり、マレーシアがワクチンの研究開発を継続させる手段として開始されました。このロードマップの立ち上げについてどう思いますか?

コロナ禍の中で、私たちは多くの教訓を学んだと思います。それは、次に何が起こるかを予測し、それに備える必要があるということです。最近、マレーシアをはじめ多くの国が「今こそ備えなければならない」と言っています。なぜこのようなことを言うのかというと、ファイザーと協力して製薬会社の BioNTech が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)用の ワクチンを数年ではなく数カ月で発売できたのを見たからです。これは、人々が新薬開発に期待することなのです。

しかし、BioNTechが数カ月で発売できたのは、2008 年以来、何年も先の仕事を行ってきたからです。現在、国家ワクチン開発プログラムが始まっています。素晴らしいことです。しかし、私が主張したいのは、パンデミックが発生するまで研究を待つことはできないということです。将来に備えるために、今、技術と研究に投資しなければなりません。私たちが開発しているワクチンは感染症用ではありませんが、ワクチン開発に使われた技術をマレーシア独特の感染症のために使用することは難しくありません。

私たちはワクチン技術を開発しライセンスを供与します。その活動が、研究開発への早期投資と、研究室から産業界への成果移転は、公衆衛生の成果にプラスの影響を与えるという証明になればいいと願っています。

4. ワクチンの研究開発過程で大きな困難なことはありましたか?

私たちが直面した大きな困難の 1 つは、「ファーストインマン」試験の資金を得ることでした。実際のところ、研究を行い、その後、製薬会社に技術をライセンス供与する全期間を通じて、私たちが直面しなければならなかった大きな問題の 1 つは資金調達でした。英国政府とカナダ政府からのいくつか助成金を受けただけでなく、Newton-Ungku Omar基金も取得できたことに感謝しています。最初の臨床試験を進めるにあたりさらに多くの資金を調達する必要があるため、クラウドファンディングも利用しています。いくつかの助成金を確保した後も、私たちは常にもう 1 つ、差し迫った問題に直面しています。プロジェクトに取り組むために地元の研究者を多く雇用することは、やはり難しいのです。マレーシアには、あまり研究に従事する人材はいません。多くのマレーシア人科学者は、米国、英国、さらには近隣のシンガポールなど国外に行く傾向があります。研究環境の成熟度と発展度が高いためです。

5. マレーシアには研究に関わる人材がどうして少ないのでしょう?

多くの理由が考えられますが、人材が少ない要因の一部として、通貨リンギットの価値が低いことやマレーシアの研究開発環境があまり成熟していないことが挙げられます。人々が国外を選ぶ理由は十分に理解できます。しかし、私はマレーシアの科学者たちに、ここマレーシアで大衆に大きな利益をもたらす画期的な研究を行うことが可能であることを示したいと思います。また、地元大学の学位を持つ人がこの研究に参加することも可能です。私はマレーシア国立大学を卒業しました。華々しいオックスブリッジの成績証明書は持っていません。ですから、私は地元の大学で働くことがどのようなものかを正確に知っています。多くの障壁があります。材料と試薬の調達に最大 4 週間かかる場合があります。しかし、私はスプリットサイト博士号(大学と離れた場所で取得できる博士号)を取得し、ロンドンのセントジョージ病院でしばらく過ごす機会がありました。この経験から、科学がどのように行われるべきか知ることができました。そこでは研究環境が整っており、産学連携が常に行われています。それが私がここに戻ってきた理由です。つまり、私は物事を変えたいのです。私はこの変化の一部となり、マレーシアの研究環境が成長し、繁栄するのを見届けたいのです。何と言っても、マレーシアは私のtanah air (母国)なのです。

6. 帰国を迷っている若いマレーシア人科学者に伝えたいことはありますか?

キャンサー・リサーチ・マレーシアの成功は、マレーシアの研究における多くの成功事例の 1 つです。このような事例が、マレーシアの科学者が帰国し、国の急成長する研究運動の一部となり、それを前進させるきっかけとなることを願っています。さらに、それが実現することを願っています。ここマレーシアで、マレーシア人とアジア人のために何かできることがあります。ここで何かを成し遂げることができます。

(2022年12月19日公開)

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