韓国とAI技術でMoU締結、連携のさらなる深化へ シンガポール

2022年12月22日 アジア・太平洋総合研究センターフェロー 斎藤 至

シンガポールと韓国は12月6日、ソウルで人工知能(AI)に関する了解覚書(MoU)に署名し、AIに関する緊密な協力と、この新興技術の責任ある利用を促すことに合意した 1。両国が11月21日に署名したデジタル・パートナーシップ協定(DPA)に続く、同分野における連携のさらなる深化と位置付けられる。

両国はこのMoU において、以下の3つの分野で連携に合意した。

  • ① 共同研究助成金の設置
  • ② AI政策・ガバナンスの方向性の更なる一致
  • ③ ヘルスケアAIソリューションにおける好実践の共有

これにより、シンガポールの関係者や専門家は韓国のステークホルダーや有力企業との交流が可能になる。

ソウルを訪問したシンガポールのジョセフィン・テオ(Josephine Teo)情報通信相は、会見でこのMoUについて、「我々のデジタル・パートナーシップにおける新たなマイルストーンとなり、AIの責任ある利用を促進するうえで、技術と経験の交換を可能にする」と表明した。対する韓国のイ・ジョンホ(Lee Jong-Ho) 科学技術情報通信相は、AI技術が「気候変動、高齢化社会、健康パンデミックなど、我々が直面する様々な社会課題や限界の克服に不可欠となっている」と指摘し、今回のMoU を歓迎した。

シンガポールと韓国はAI分野で戦略的にも多くの共通点を有する。シンガポールは現行の5カ年計画『リサーチ、イノベーション、企業2025年計画(RIE2025)』で「信頼性あるデジタル・イノベーション・ハブ」となることを掲げ、研究開発を促進すべく、2018年9月にシンガポール経営大学(SMU)へAI・データガバナンス研究所を設置し 2、2022年政府予算ではAIを用いたアプリシステム開発へ20億シンガポールドル(約2,020億円)を投じている 3

韓国は『イノベート・コリア2045』でAI技術が社会に変革をもたらす可能性を重視しており 4、かねてから光州広域市がAI産業融合集積団地の造成事業(AI Town Project)を進めている。産学連携としては、2018年3月に光州科学技術院 (GIST)がシンガポールのテック系企業グループ、ゴールデン・イクウェイターとMoU を締結しており 5、中央政府も2022年にはデジタル・ニューディール政策の一環で9兆ウォン(約9,000億円)を投じている 6

韓国ではとりわけ、2022年に入って光州市のAI Town Projectが加速している。2月には事業の1つとして自動車11種、エネルギー1種、ヘルスケア2種でAI実証装置を導入したほか、8月には国の「K-Health国民医療AIサービス・産業構築」公募事業に最終選定され、AIに基づくスマート医療で、2025年までの4年間、298億ウォン(約30億円)の国費を確保した 7

今回のMoU締結で、両国のプレーヤーがこれまでの好実践のノウハウを交換しやすくなれば、さらなるイノベーションの駆動力となり、AI分野でアジア・太平洋地域を牽引することが期待されよう。

上へ戻る