アジアのチェンジメーカー:企業の脱炭素化は簡単なことではないが、Unravel Carbon の共同設立者兼 CEOであるグレイス・サイ(Grace Sai)氏は、アジア太平洋地域でネットゼロイニシアチブを開始し、脱炭素化に取り組んでいる。
グレイス・サイ(Grace Sai)氏は娘が 2 歳のとき、何かあったときのことを考え、じっくりと遺言書を書き始めた。ところが彼女は突然不安を感じた。サイ氏は世界の気温上昇に関する記事を読み、世界的に2050年までに温室効果ガス排出量のネットゼロを実現するにはまだほど遠いことを知った。彼女の遺言書が将来、娘を助けられるだけ十分なものなのか疑問に感じていた。
「私は、娘が受け継ぐ惑星が住めなくなる可能性さえあるのに、このような有形の資産を娘に残すことに意味があるのか分からなかった」とサイ氏はAsian Scientist Magazine に話した。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの発生も相まって、この疑問はサイ氏にとって、温室効果ガスの排出と企業が現在ネットゼロの未来に向かってどのように進んでいるのか読み取り、深く学び始めるきっかけとなった。彼女はすぐに企業の二酸化炭素排出量データの測定と分析をコンサルタントに依頼する現在の方法では時間がかかりすぎることに気づいた。
「手作業のコンサルタントが、大企業の一般的な測定値を単に見積もるのに3~9カ月かかるが、企業が実際に脱炭素化するには3~6カ月しか時間がないので、これは意味がない」とサイ氏。
そのため、彼女はUnravel Carbonという新規事業を立ち上げ、この問題に取り組み始めた。サイ氏とビジネスパートナーの Marc Allen が共同設立した Unravel Carbon は、企業の二酸化炭素排出量を追跡する人工知能(AI)を活用したプラットフォームである。このプラットフォームは、企業のサプライチェーン全体の二酸化炭素排出量のホットスポットを完全に把握することで、企業が脱炭素化のプロセスをより迅速に開始するのを助けるレポートを提供する。
サイ氏は以前にも新規事業を立ち上げており、15年のキャリアの間に、ベンチャー投資会社に加え、コワーキングスペースと起業支援2つの事業を共同設立している。しかし、Unravel Carbonは、これまでの彼女のベンチャー事業とは別物であった。
「私はこれまで、持続可能性の問題を真剣に受け止めていなかった。つまり、見出しなどでは目にしていたが、気候変動の影響については非常に受け身的であった。娘の将来を悟り、温室効果ガスの排出と気候変動について積極的に学び始めてから、この差し迫った問題に取り組むために起業家としての経験を活かすことを決心した」
Unravel Carbon は 2021年の設立以降、アジア太平洋地域のさまざまな企業と緊密に協力して、サプライチェーンの脱炭素化に取り組んでいる。Unravel Carbon のサービスを利用している企業の1つが、F&B アウトレットの SaladStopである。SaladStop はこの協力により、シンガポールのCapitaSpringに最初のネットゼロアウトレットを建設・装飾するために、再生・再利用された建材を使用することに加え、可能な限り地元の農産物を食材として調達するなど、ビジネス全体でさまざまな変更を採用するようになった。
アジア太平洋地域で取り組みを進めていくことは、サイ氏とUnravel Carbonのチームにとって特に重要なことである。この地域は世界の製造とサプライチェーンの中心であり、かなり集中しているため、世界最大の温室効果ガスの発生源の1つとなっている。それが、ここで脱炭素化を開始することが重要な理由である。
「アジア太平洋は十分なサービスを受けていない地域である。ここには私たちのような事業を立ち上げている人はいない」。ヨーロッパや北米などの他の地域に事業を拡大する計画はあるものの、サイ氏はUnravel Carbonは引き続き本拠地で集中的に取り組んでいく所存だ。
(2023年01月30日公開)