ASEAN-EU外交関係45周年、さらなる科学技術協力へ向けて(前編)

2023年1月30日 JSTアジア・太平洋総合研究センターフェロー 斎藤 至

2022年、東南アジア諸国連合(ASEAN)は欧州連合(EU)と外交関係を結んで45周年を迎えた。同年12月14日、この関係を記念し、EU本部のあるブリュッセルで史上初のサミット(首脳会談、以下EU-ASEANサミットと略記)が開催され、ASEANの代表者がEU閣僚と共に参加した 1。本稿では、両地域連合間の関係を概観しつつ、科学技術の関連領域でいかなる協議がなされたのか整理し、今後の科学技術協力を展望してみたい。

EU-ASEAN関係の概況

ASEANは面積こそEUの1.1倍弱でありながら、人口規模ではEUの1.5倍であり、高いポテンシャルを持つ市場として世界から注目を集めている。通商関係で見ると、EUはASEAN諸国にとって輸出、輸入共に第2位の貿易相手地域であり、最大の海外直接投資(FDI)受け入れ地域である。その貿易額(2021年)はEUへの輸出額で1,361億ユーロ(約19.6兆円)、EUからの輸入額で797億ユーロ(約11.5兆円)に及ぶ。ちなみに、日本はASEAN諸国にとって、中国、アメリカ、EUに次ぐ第4位の貿易相手地域であり、貿易額(2021年)は総額の7%を占めるという 2

EUとASEANの基礎情報

出典:「EU-ASEAN 戦略的パートナーシップ青書2022」15ページを参照し筆者作成

ASEANが経済共同体の発足を正式に宣言した2015年、EUはASEANと地域対話文書(READI: Regional EU-ASEAN Dialogue Instrument)に基づいた第1回政策対話を開催した。両地域間で交わされる対話のテーマは、環境配慮型エネルギー・デジタル経済から研究開発振興まで20項目にわたる。2017年には第2回対話および、海洋安全保障と国連の「持続可能な発展目標(SDGs)」3に関するハイレベル対話を開催すると、2020年には戦略的パートナーシップを結び、以来7つの優先領域 4で連携を強化してきた。

E-READIの支援を受けている現在の主題別領域

注:「EU-ASEAN 戦略的パートナーシップ青書2022」25ページを参照し筆者作成。橙枠は科学技術イノベーションに直結する領域を指す。IUUとは「違法・無報告・無規制」な漁業のこと(WWFジャパンより)

グリーンとデジタルが軸、新たな戦略的パートナーシップ

EU-ASEANサミットの共同声明 5では、新たな戦略的パートナーシップ(2023~27年)を実施するための行動計画が採択された。特に、グリーンとデジタル、すなわち「クリーンかつ公正なエネルギーへの移行」「持続可能な発展、環境、気候変動、エネルギー」と「コネクティビティ(接続性)、デジタル移行、発展ギャップの縮小」を軸に各領域での協力事項が掲げられた。先述した7つの優先領域のうち、グリーンかつインクルーシブな移行、デジタルガバナンス、安全保障・防衛は科学技術分野に関係している。これに研究開発の振興を加え、以下に4つの観点でポイントを整理してみた。

(1) グリーンかつインクルーシブな移行:

  • SDGsに関しては、持続可能な発展対話、パリ協定および気候変動枠組条約に関しては、環境・気候変動対話を通じた協力。
  • 生物多様性地球規模枠組みに関しては「生物多様性ASEANセンター」の設置、仙台枠組みに関しては「防災・減災に関するASEAN調整センター」を支援。
  • エネルギー対話の促進。気候中立(climate neutral)6に向けたエネルギー転換、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギー割合の増加。

(2) デジタルガバナンス:

  • デジタル移行。デジタルインフラ投資の促進。ASEANデジタル指標(ASEAN Digital Index、2021年5月~)7の確立。
  • ASEAN加盟国内およびASEAN加盟国と非加盟国の間にある、発展ギャップの縮小。
  • コネクティビティ(接続性)の復興。ASEAN接続性2025に関するマスタープラン(MPAC2025)の実施、およびサプライチェーン(物流、供給網)の強靭化。

(3) 安全保障・防衛:

  • 「サイバーセキュリティ」(情報通信技術の安全保障)に関する共通課題に対する取組。
  • 「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の文脈で、ASEAN主導による国防・災害救援メカニズムに対する支援の実施。

(4) 研究開発の振興:

  • EUとASEAN科学技術・イノベーション委員会(COSTI)との間の対話の緊密化。
  • 参加拡大と欧州研究圏(ERA)強化。ERAは2000年3月のリスボン欧州理事会で承認を受けた概念で、域内外の研究者の相互交流を通じ「世界中のパートナーとの強力な関係構築」をうたっている。サミットの会期中も、12月12日には高等教育の人的協力祝賀会が開かれ、共同声明では「エラスムス+」(2021~27年)、高等教育への支援(EU SHARE)(2015~22年)など、研究者・留学生の相互交流促進が表明された。

これらのうち(2)と(4)に関連する動向として、高性能コンピューティング(HPC)に関する共同教育プログラム「HPCスクール 8」を補足したい。これはEU と日本から専門家の協力を得てASEAN10カ国から学生が集い学ぶ事業で、初回の2021年度はオンラインで開講された。2022年度のHPCスクールは、タイのカセサート大学主催で12月5~10日の5日間にわたり対面で開講され、70名の学生が修了した。

総じて共同声明は、EUがASEANの主導する各分野での取組支援を基調に置きながら、地域連合間の協力を緊密化することを明らかにしている。

さらに、2021年12月からは新たな投資戦略「グローバル・ゲートウェイ」が、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的大流行(以下、新型コロナ禍)への対応策として発表され、上述の科学技術協力を支えている。その詳細は後編で紹介する。

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