トップクラス研究者の交流会「GYSS」開催-高度人材の誘致に一役 シンガポール

2023年3月3日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠(Max Fong)

コロナ禍以来、シンガポールのグローバル・ヤング・サイエンティスト・サミット(Global Young Scientists Summit:GYSS)はオンラインで行われるようになっていたが、第11回の今回は1月17~20日の日程でシンガポール工科デザイン大学(SUTD)にてハイブリッド形式で開催された。

GYSS会場にて、筆者

GYSSのパネルディスカッションの様子

同サミットには32カ国の106機関から様々な分野にわたる研究者や技術者が400名ほど集まった。GYSSでは例年、世界中の優秀な研究者が科学技術の新しい発展や自分の研究での経験等について発表しているが、今年はそれだけでなく、講座やパネルディスカッションに「科学者は外交と社会について意見を言うべきか」や「サイエンスコミュニケーション」のような、技術そのものではないテーマも見受けられた。近年、SNSやメディアで科学的根拠に基づいていないフェイクニュースが大きな社会問題となり、政治家まで新型コロナウイルスワクチンを巡る偽情報を拡散することもあったため、研究者からの科学的根拠に基づいたコミュニケーションの重要性が増したためと考えられる。

ピロリ菌の研究でノーベル生理学・医学賞(2005年)を受賞したバリー・マーシャル(Barry Marshall)博士から中国語で旧正月の挨拶

2013年から始まったこのサミットは、シンガポール首相府国立研究財団(National Research Foundation: NRF)が主催するトップクラス研究者の交流会である。内容としてはノーベル賞、フィールズ賞等を受賞した世界有数の科学者や技術者によるライブのプレナリーレクチャーやパネルディスカッション、Q&A セッション等を通して、科学技術について気軽に交流できるようになっている。

このサミットは間違いなく、研究者にとってネットワーキングの絶好の機会であるが、それだけでなくシンガポール政府にとっては高度人材を誘致する手法の一つともなっている。第1回サミットを創設したNRFの会長(当時)のトニー・タン博士(Dr. Tony Tan)によると、当サミットの目的は次世代の若手研究者への刺激や国際的なネットワークを広げるための場づくりだけでなく、シンガポールへ有能な研究者を誘致しようとするものでもあった。

シンガポール政府はサミットを通して、シンガポールにある研究所や施設、政府による共同研究強化や研究開発投資への取り組みを世界中の研究者に紹介もしている。今回のサミット初日のオープニングスピーチで、NRF現会長のヘン・スイキャット(Heng Swee Keat)副首相が、シンガポール政府は研究開発を十分に支援していると表明した。

同副首相は、シンガポール滞在中にホーカーズと呼ばれる屋台村を訪れることも参加者にお勧めした。実際、参加者らは10シンガポールドルが入っているEZ-linkカード(日本でのSuicaあるいはPASMOカードに相当)を主催者から提供され、これを使ってシンガポールの電車やバスに乗れ、シンガポールの街中を体験することができた。またサミットでは、シンガポールの研究者らがオンラインのプレゼンテーションで、自分の研究や研究所の設備等を説明した。このようにシンガポールは色々なところで高度人材の誘致などの工夫をするからこそ、小さい国でありながら世界に注目されるような研究開発が進展していると言えるだろう。

4日間のイベントを通じて、今年の参加者らも当サミットでとても充実した時間を過ごすことができたようだ。「ノーベル賞を受賞した研究者と科学技術について話し合えて感動した」、「他の国の研究者とつながることができてうれしかった」等の声が参加者から寄せられた。

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