AI研究能力世界7位へと導いたAI Singapore シンガポール

2023年3月29日 JSTシンガポール事務所 馮偉誠(Max Fong)

「AI Rankings」というランキングによれば、シンガポールのAI(人工知能)の研究能力は世界7位となっており、8位の日本を上回っている。国としては小さいシンガポールが、AI研究においてどのようにして躍進を遂げたのか。以下にそのポイントを示す。

RIE(リサーチ、イノベーション、企業)

シンガポールのRIEは科学技術の研究や商業化の戦略を含む計画であり、シンガポール発展の基礎である。5年毎に更新される。シンガポール政府からRIEへの投資は増えている。前期計画のRIE2020(2016年~2020年)の予算は190億シンガポールドル(約1兆9000億円)だったが、今期計画のRIE2025(2021年~2025年)では250億シンガポールドル(約2兆5000億円)となっている。

RIEによれば、シンガポール政府はAIを、多くの分野で成長を促すことができる、現在もっとも重要な技術の1つとみている。AIの中で特に注目しているトピックとしては、AIを使った革新的材料の開発、処理のプロセスを説明してくれるAI、連合学習の AIなどが取り上げられている。

AI Singaporeのミッション

2017年、NRF(National Research Foundation:国家研究財団)を含むシンガポール政府の6機関が提携してAI Singaporeという機関を設立した。主なミッションはAIの研究能力の強化、人材育成、AIの実用化を促進することだ。

具体的には以下のような目的を掲げている。

  • (1)AIを通して交通の最適化や高齢化社会などの社会問題を対策するための研究開発を促進する
  • (2)AIの分野での人材育成と、「処理のプロセスを説明してくれる」AIといった次のイノベーションを起こす
  • (3)金融、ヘルスケアとエリアマネジメントの業界において、AIを実用化する

この3つの目的を果たすために、AI SingaporeはNRFから配分された年間3000万シンガポールドル(約30億円)ほどの予算で様々な研究の支援を行っている。 AIの機能を強化する研究として、

  • 望む結果までの手順を導くことができる「説明可能なAI(Explainable AI:XAI)」
  • 人間の知能のように高いレベルで動作する「汎用人工知能(Artificial General Intelligence:AGI)」の研究
  • 革新的材料やヘルスケアに関するAIの研究

―を支援している。他方、企業や一般人がAIの技術を安心して使えるためにAIの信頼性に関する研究もサポートしている。

このほか、AIの研究を実用化するために、AI Singaporeは100ExperimentsというプログラムでAIを活かして企業の問題を解決するような研究を支援している。現在、このプログラムではすでに62プロジェクトが実用化され、34プロジェクトはまだ研究を行っている。一つひとつのプロジェクトにつき、AI Singaporeからの支援金額は18万~33万シンガポールドル(約1800万~3300万円)だ。

シンガポール政府は将来にとってAIの重要性を見越して、このように様々な方面からAIの研究能力を向上させているからこそ、小さい国でありながら世界7位まで辿り着いたと思われる。

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