【AsianScientist】非侵襲的なバイタルサイン・モニタリングを簡便に提供

技術の進歩により、非侵襲的な(生体を傷つけず痛みが少ない)バイタルサイン(脈拍などの生命徴候)・モニタリングをすべての人が利用できるようになり、従来のモニタリング方法の不便さをなくすことができる。(2023年4月24日公開)

体温、血圧、脈拍、呼吸速度の共通点は何であろうか? これらはすべて人間の健康を示すバイタルサインである。これらのバイタルサインのモニタリングは、患者治療の一般的かつ重要な要素であり、生命を脅かす事象の発見または防止に役立つ。また、この測定値は臨床医にとって必要な情報であり、必要な情報に基づいて判断することで、患者の治療とその結果を向上させることができる。

通常、医療従事者はこれらのバイタルサインを多種多様な方法で測定する。ただし、特に高齢者や幼児などの脆弱な集団にとっては、医療従事者の診断を受けに行くことは不便であり、困難でさえある。

バイタルサインのモニタリングをより利用しやすくするために、研究者によってリアルタイム・モニタリング用の正確で低コストのデバイスが設計された。たとえば、今日のモニタリング技術の多くはフォトプレチスモグラフィ(photoplethysmography:PPG)を採用している。PPGは、皮膚表面下の血液量の変化を検出できる、非侵襲的でシンプルかつ低コストの光学的方法である。

動脈の血流量は、心臓が鼓動するたびに変化する。PPGセンサーは、発光ダイオード(LED)と光検出器を使用して、皮膚に光を当て、メラニンによって吸収されずに皮膚の表面から反射された光の量を測定することによって、それらの変化を検出する。このプロセスにより、人の健康状態を判断するために分析できるPPG信号がわかる。

PPGセンサーの光が皮膚にどの程度入るかは、その波長によって異なる。赤色および近赤外線NIR)のLEDは波長が長く、メラニンに吸収されにくいため、皮膚の奥深くまで浸透する。緑色と青色のLEDは、波長が短く、浸透が比較的浅い。そのため、臨床でのパルスオキシメータでは赤色と近赤外線のLEDが使用されていることが多いが、心拍数と呼吸速度を測定する市販のウェアラブル(装着型)PPGでは緑色のLEDが採用されている。

PPGを利用した革新的な医療機器は、 2030年までに10億4000万米ドルの市場価値を持つと予測されているグローバルなデジタルヘルス・エコシステムの重要な部分である。これらの機器によって、質の高い医療を提供する方法が変わり、すべての人がさらに手頃な価格で利用できるようになろうとしている。

良質な睡眠

一晩ぐっすり寝ても疲労感が残る場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性がある。 睡眠中に呼吸が繰り返し止まる深刻な睡眠障害である睡眠時無呼吸症候群は、世界人口のかなりの割合に影響を与えている。治療せずに放置すると、高血圧や心臓病などの深刻な健康問題を引き起こす可能性がある。

香港を拠点とするイノベーションにより、睡眠中のバイタルサインを簡単にモニタリングできるように、 PPGで音声を聞くことができる(ヒアラブル)ようになった。このイノベーションで特に特徴的なのは、PPG 測定が外耳道内で行われることである。PPG 装置がもともと外耳道内に制限されているため、ユーザーの動きによる障害を最小限に抑えることができる。さらに、独自のアルゴリズムを使用することで、不要な信号をさらに除去できる。これにより、「ノイズ」が効果的にフィルタリングされ、生の詳細な情報が保持される。この情報は、心拍数や呼吸速度などのさまざまな生理学的データに変換され、ユーザーのスマートフォンに送信されて簡単にモニタリングできる。

このようなユーザーに負担のないスマートなヒアラブルは、無呼吸が検出されたときにユーザーに音声合図を送り、ユーザーを優しく起こして、寝る姿勢を変えさせる。 小型で軽量な PPG ベースのヒアラブルは、睡眠時無呼吸症候群を経験している人が必要とする質の高い睡眠を得るのに役立つ。

簡単な血圧モニタリング

測定すべきもう1つの重要なバイタルサインは、個人の心臓の状態の明確な兆候となる血圧である。高血圧は、心臓発作、脳卒中、その他の生命を危険にさらす健康問題を発症するリスクを示す。膨張式のカフを使用して血圧を測定する従来の方法は、すでに非侵襲的であるが、継続的なモニタリングは不可能であり、睡眠中や運動中の測定もできない。

カフを使用しない、小さくて使いやすいウェアラブルは ユーザーの PPG 信号を検出し、それらのPPG信号で高度なアルゴリズムを使用してユーザーの血圧を測定することができる。このシステムを使用するには、医療用の血圧測定装置と較正する必要がある。連続した測定は較正点を基準にしており、スマートフォンやスマートウォッチなどの消費者向けデバイスへの接続により、ユーザーは測定値を簡単に利用できるようになる。これにより、ユーザーは健康データの顕著な変化を継続的にモニタリングして分析でき、心臓や血圧の問題の兆候を早期に発見できるため、早期の救命介入が可能になる。

一部のテクノロジー企業は、PPG信号を較正する必要性を完全になくすために、機械学習を組み込んでいる。このイノベーションにより、継続的な血圧モニタリングが可能になり、カフを使用しない測定への道が開かれている。

スマートフォンによる接触しないモニタリング

これらのウェアラブルをさらに便利なものにするために、研究者はスマートフォンの力を活用している。生産性の向上からエンターテインメントの提供、写真技術の向上まで、この手のひらサイズの機器は現代の驚異にほかならない。ヘルスケアが多様化する中、多くのモバイルアプリケーションには、ユーザーが自分の健康状態を管理できる機能が含まれている。

シンガポールを拠点とするイノベーターは、センサーとしてスマートフォンのカメラを利用して、リモートPPG(rPPG)技術 を開発した。この技術は、独自のコンピューター・ビジョン・アルゴリズムと信号処理技術を使用し、ユーザーの顔から反射する光を通してユーザーのバイタルサインを測定する。ユーザーの事前に録画された動画やリアルタイムの動画を分析し、反射光に基づく顔の血流と量の変化を通して心拍数と呼吸速度をモニタリングすることにより、リモートでこのプロセスを実行できる。この技術の高度な動画処理方法には、関心領域(この場合は顔)のキャプチャ、信号のフィルタリング、PPG 信号の信号対雑音比の増加が含まれる。NIR光を使用するとより正確な測定が可能になるが、rPPG技術で PPG 信号を取得するには周囲光で十分である。心拍数と呼吸速度に加えて、rPPG技術は心拍変動測定からストレス レベルを導き出すこともできる。

健康や医療のアプリケーションから、ヘルスケア以外の産業に至るまで、このrPPGベースのモニタリング技術のアプリケーションは多岐にわたる。重要なことに、このイノベーションは、遠隔地に住む個人の医療の利用可能性を向上させ、遠隔医療をより多くの集団に拡大させるのを助ける。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後は、多くの人々が実際に診療所に足を運びたがらなくなっている。これらの技術の提供は、自分の健康を管理したい個人にとって優れた在宅ベースのソリューションになる可能性がある。

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