【AsianScientist】画面を見る時間が長い子供、認知機能が低下する恐れ シンガポールで研究

JAMA Pediatricsに掲載された最近の研究で、スマートフォンなどの画面を長時間見ている幼児や子供は認知能力が低下する恐れがあり、その影響は8歳以降も続く可能性があることが示された。(2023年4月27日公開)

この研究を主導したシンガポール臨床科学研究所(Singapore Institute for Clinical Sciences:SICS)のトランスレーショナル神経科学プログラムのプログラムディレクターであるMichael Meaney教授は「両親が長時間働き、子供たちが頻繁に画面を見ているシンガポールのような国では、画面を見ている時間が子供の発達中の脳に与える影響を研究し、理解することが重要である」と話す。

これは、シンガポール国立大学(NUS)のヨンローリン医学部(Yong Loo Lin School of Medicine) 、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の臨床科学研究所 、国立教育研究所、シンガポールのKK 女性と子供病院、モントリオールのマギル大学、そして米ハーバード大学医学大学院(Harvard Medical School)の研究者らの共同研究である。研究者らは2010年11月から2020年3月までの間に、シンガポール最大の出生コホート研究である GUSTO(Growing Up in Singapore towards Healthy Outcomes)に参加した 506 人の子供のデータを収集した。

画面を見ている時間が過度に長いと子供の認知発達に悪影響を及ぼすことを示す証拠は増えており、この研究によってさらにそれが裏付けられた。たとえば、2010年にジョージタウン大学が行った研究とその10年後にバーミンガム大学とケンブリッジ大学が行った別の研究では、就学前(生後6カ月~4歳)の幼児と子供が長時間テレビを見ていると、認知機能と実行機能が損なわれることが報告された。実行機能には、注意力を持続し、情報を処理し、感情の状態を調整するために不可欠な認知技能が含まれている。

GUSTOに基づく研究の研究者は、1日当たりの画面を見る時間に基づいて、子供を4つのグループ (1 時間未満、1~2時間、2~4時間、4時間以上)に分けた。研究者はまた、脳活動の変化を追跡する高感度ツールである脳波計(electroencephalography:EEG)を使用して、生後18カ月の脳活動データを収集した。子供たちはEEGに加えて、さまざまな認知能力テストも受けた。研究によると、画面を見る時間が長い幼児のEEG測定値は、注意の制御力が低いまたは認知的注意力の欠如と一致していた。

この研究によると、画面を見ている時間が過度に長いことは、幼児や子供の実行機能の発達を妨げる多くの環境要因の1つとなっている。

NUS 医学部長でSICS の最高臨床責任者(chief clinical officer)の Chong Yap Seng 氏は「これらのGUSTO の研究結果は、将来の世代と人的資本の成長可能性に影響を与えるため、軽視すべきではない。これらの結果により、環境が子供の健康と発達にどのように影響するかをよく理解することができた。これにより、すべての子供たちに人生の最高のスタートを与え、すべてのシンガポール人の健康と可能性を向上させる上で、より多くの情報に基づいた決定を下すことができる」と述べた。

以前の研究では、幼児は2次元の画面で情報を処理するのに問題があることが示されている。幼児は画面を見ているときに、絶え間なく続くペースの速い動き、点滅し続ける光、場面の変化に翻弄されており、その変化を理解するには十分な認知資源が必要である。それによって脳が圧倒され、実行機能などの認知技能を成長させるための適切な資源を残すことが難しくなる。

研究者らはまた、幼い子供たちに画面を長時間見ることを許している家族は、食事や住居の不安などの別の問題に直面していることが多いことも懸念している。研究者らは、子供たちが画面を見ている時間が過度に長い理由を理解するには、さらなる研究が必要であると述べている。

また、NUS医学部とSICSのトランスレーショナル神経科学プログラムのEvelyn Law氏は「この研究は、既存の研究に対して、特に脳の発達の初期段階で、子供たちが画面を見ている時間を注意深く監視する必要があるという有力な証拠を示している」と指摘した。

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