【AsianScientist】水不足解消へ、廃水処理を改善する新たな膜開発 シンガポール

シンガポール工科大学(SIT)と地元の新興企業である SideStroem Water Technologies は協力して、実験規模のナノろ過型正浸透膜(nanofiltration-type forward osmosis membranes)を産業用水リサイクルに最適なものとすることを目指している。(2023年5月8日公開)

世界的問題のトップリストには、人口増加と工業化、そして水不足が挙げられている。この問題を軽減する 1 つの方法は廃水再利用であり、シンガポールの NEWater処理が優れた例となっている。 残念ながら、将来の水の持続可能性の目標について考えると、産業規模の廃水リサイクル処理は現在のところ十分ではない。

繊維産業や製革産業で最も多く行われる廃水処理方法は、ナノろ過である。これは、高い水圧を使用して、貴重な塩を維持しつつ水を膜に通過させる方法である。

しかし、水圧が高いと膜がひどく汚れたり、粒子が膜表面に堆積したりして、膜の孔を詰まらせる。 目詰まりすると、頻繁に洗浄し、膜を交換する必要がある。 そのため、システムを安定して利用するには、高価でやっかいな前処理技術が必要となる。

現在の産業用水のリサイクルは効率が悪いだけでなく、環境にも有害である。シンガポール工科大学 (SIT) の食品化学バイオテクノロジー・クラスターのズオ・ジアン (Zuo Jian) 准教授は「廃液の大部分は通常、焼却炉に送られます。 理論的には、1トンの廃液を焼却するには、約620キロワット時のエネルギーを費やす必要があります。これは266キログラムの二酸化炭素に相当します」と話す。

エネルギーコストは上昇しており、現在の方法は生態系に有害な影響を与える。そのため、他の廃水リサイクル方法を見つけることが重要である。

ズオ准教授と SideStroem Water Technologies (SideStroem) は共同研究を行い、新しい廃水処理用正浸透 (FO) 技術を開発した。この技術は産業規模に合わせて最適化されている。この開発プロジェクトはシンガポールの応用学習大学であるSIT の膜ろ過に関する優れた研究と、SideStroem のFOプロセスの実績の集大成である。

ズオ准教授は「正浸透ではあまりファウリングが起こらないため、従来のナノろ過に関連する問題を緩和するのに役立ちます。ファウリングを起こしやすい性質を持つ汚水であっても、FO 膜ならば安定した操作を続けることができます。 そのため、費用のかかる前処理プロセスを行わなくてもいいのです」と説明する。

実際のところ、FO は産業廃水処理で利用されるようになってきているが、それなりの理由がある。 ナノろ過とは異なり、FO は外圧を必要としないため、エネルギー消費は少ない。ファウリング傾向が低いだけでなく、圧力や熱に弱い手法であっても問題なく使える。

さらに、SideStroem は、廃液から水と一価塩の両方を選択的に回収してリサイクルできる特殊なナノろ過型 (NF 型) FO 膜を製造している。

ズオ准教授は様々な種類のポリマーパウダーを試して、廃水処理に最適なNF型FO膜の構造を作り上げた。現在、NF型FO膜のプロトタイプはA4用紙サイズの大きさにまで拡大されている

ズオ准教授との共同研究により、膜は大きな進歩を遂げた。この膜は、1価イオンに対する低い除去率を維持しつつも2価イオンに対する高い除去率 (99% 以上)を示し、1価溶質の抽出率は50倍高く、純水透過性は市販の FO 膜と比較して3倍高い。

このような特徴があることから、ズオ准教授 は、従来のナノろ過技術に対してFOが持つ大きな利点を強調した。「比較すると、FOの方が水回収率は高く、取り扱いがやっかいな高ファウリングのものでも、高い回復力と動作安定性を示し、大規模な前処理プロセスの必要性を減らします」

この技術は、廃水処理の経費を削減すると同時に、回収資源の収量を増加させるという大きな利点を持つ。これは、現在の処理方法を大幅に改善させる。

現在、NF型FO膜は、わずか数平方センチメートルの基礎研究サンプルからA4用紙サイズのプロトタイプにまで拡大されている。これは、さらに大きな商業規模へと向かう、意味ある進化である。

ズオ准教授は「2023 年に最初の産業規模(4~8インチ)の膜を作る計画です。これを使ってパイロット試験を行い、データを収集し、必要な情報を得ます。その後、本格的な膜試験を行います」と話す。

この技術の影響は計り知れない。 処理コストを低く抑えつつ水と貴重な溶質を同時に回収できるこの新しいNF型FO膜は、シンガポール、さらにその他の国で産業廃水処理に革命を起こす可能性を秘めている。 さらに、二酸化炭素(CO2)の排出量を削減するので、環境に優しくなる。

大きな新しいNF型FO膜が作成されれば、繊維工場や皮革工場の廃水処理の一部として採用されるだろう

この技術には汎用性があるため、他の方法や分野でも利用できる。開発された膜から利益を得ることができる産業は、発酵産業である。膜には発酵ブロスから阻害副産物を除去する能力があるため、継続的な発酵が可能となる。これにより業界の生産性が向上し、資本コストが削減される。

ズオ准教授は「私は10年以上膜の研究をしています。産業排水の処理では膜技術の可能性を感じています。 FO 技術は有利ですが、適切な膜がないため、その用途は限られています。 私たちの新しい膜が、さまざまな産業で FO ベースの水処理を改善できることを願っています」と期待する。

この技術について詳しく知りたければ、ズオ・ジアン准教授のサイト(https://www.singaporetech.edu.sg/directory/faculty/jian-zuo)や SideStroem Water Technologies のサイト(https://sidestroem.com/)を参照されたい。

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